神奈川県の南西部に位置し、南北に約7Km、東西に約1Km、小半島の真鶴町。東京から電車で約1時間半のこの小さな港町を移住先に選ぶ人が増えている。30代の川口瞬さん・友美さん夫妻は出版社「真鶴出版」を起業し、町の暮らしを発信している。
川口さん夫妻も移住者。海外を拠点に活動していた2人は、真鶴町のまちづくり条例に盛り込まれたコミュニティの在り方や、眺めなど独自の観点から定める指針『美の基準』に感銘を受けて、2015年に引越してきた。日々感じる町での発見を出版物やSNSで発信していくと、国内外から共感の声が届き、来訪者も増えていったという。16年からは「泊まれる出版社」として活動の幅を広げ、古民家を改装したオフィスを兼ねた宿泊拠点も整備した。「コロナ禍以前は10年後など将来の移住を目的に訪れる人がいたが、最近は『今すぐにでも』という20・30代の人も多い」という。
「いつもの日」楽しむ町歩き
来訪者向けに実施している1日1組限定の「町歩き」は、旅と移住の間がテーマ。友美さんが案内人となり、古くからある商店や普段の港を訪れ、町民との会話を楽しむ企画だ。「無理やり移住を勧めることはしない。特別な日ではない、いつもの町の様子を知ってほしい」と友美さん。
現在は、自分たちと同じように全国でそれぞれの町の魅力を発信している仲間たちとつながり、新たな雑誌を構想中だ。「『町の入り口』を広げる役割を大切にしている。東京じゃなくても、どこにでも住め、働ける可能性があることを伝えていきたい」と笑顔で語った。