産業道路から脇道へちょっと入った場所に、一見、ガレージと見紛うパン屋がある。2018年3月、帖佐(ちょうさ)寛徳、麻利子さん夫妻が開いた「柳島カルチャー」だ。
もと役者のお二人がパンを焼くようになったきっかけは、長男の激しい偏食。「離乳食を食べてくれなくて困り果てているとき、なぜか自家製のパンだけは食べてくれたんです」(麻利子さん)
以来、もっと体にいいパンを焼けないかと研究を重ねるうち、すっかりパンの虜になった。独学の参考にしたのがハード系の名店の本だったこともあって、やがてレーズンから起こした自家製酵母でカンパーニュを焼くようになり、約2年半のパン屋修業を経て開業に漕ぎつけた。
看板商品のひとつ、くるみとレーズンのカンパーニュは、手に取るとずしりと重い。それもそのはず、断面には具材がびっしりと並び、堅めの外皮は噛めば噛むほどうま味がにじんでくる。
「自家製酵母を使うと思い通りに膨らまないこともあるし、季節や天候の影響も受けます。でも、不自然なことをして均質なパンを焼こうとは思いません。酵母と石窯がその日その日のパンを焼き上げてくれるのを、僕はお手伝いしてるだけなんです」(寛徳さん)
寛徳さんが焼くパンの大ファンを自認する麻利子さんのお勧めは……。
「全粒粉食パンですね。見た目は普通ですが、中味はちょっと酸味があって、うちの夫にしか出せない味なんです(笑)」
こんがりと焼けたクリームパンやあんぱんも甘さが過ぎず、子供のおやつに食べさせたい味だ。
■執筆者プロフィール
山田清機(やまだ・せいき)
ノンフィクション作家。茅ヶ崎市浜須賀在住、57歳。著書に『東京タクシードライバー』『パラアスリート』『寿町のひとびと』など。