「気候変動」伝え、ソーシャルビジネスも展開する若き環境活動家「露木志奈さん」インタビュー【SDGs特集】

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「気候変動」伝え、ソーシャルビジネスも展開する若き環境活動家「露木志奈さん」インタビュー【SDGs特集】
取材に答える露木志奈さん(横浜市在住)

大学を休学して、全国の小学校・中学校・高校で気候変動をテーマにした講演を行っている露木志奈さん。繰り返し伝えているのは、「環境問題は待ったなしの状況」であること。大人になるまで待つことなく、今すぐアクションを起こすことを呼び掛けている。

「気候変動」伝え、ソーシャルビジネスも展開する若き環境活動家

いまやあちこちで耳にするSDGsの言葉ですが、ご自身はどのように捉えていますか。また日本社会での浸透度について、感じているところを聞かせてください。

「より良い社会の実現に向けて、みんなで一緒に向かうための目標だと認識しています。解決すべき課題が可視化されました。日本国内だけでなく、世界全体でそれを共有している点がすごくいいと思っています」

SDGsの17の目標の中で、環境問題の領域で精力的な活動を展開されています。きっかけは何でした?

「環境問題に関心を持ったのは高校生の頃。英語習得を目的にインドネシアのバリ島にある「グリーンスクールバリ」に留学しました。ここは〝世界一エコな学校〟と呼ばれていて、「持続可能な社会の実現」に向けたカリキュラムが組まれていました。

その中に、ゴミ山を訪れるという授業があり、積まれているゴミの排出源を調べると自国のものだけでなく、海洋から漂着したものや他国から船で運搬されてきたものがたくさんあることを学びました。国をまたいで廃棄物の処理を押し付けあう関係があり、その影には経済格差の問題も潜んでいました。身近なゴミですが、複雑な問題が絡みあっていることを知り、興味がわきました。

また同じ頃に、化粧品の研究をはじめました。肌荒れに悩む妹のために、成分分析したり、自然素材を用いて自作してみたり。そうしているとまたゴミ問題と環境問題に繋がってくるんです。自然由来を売り文句にしている口紅も熱帯雨林を燃やして素材を入手しているケースや、化粧品開発に動物実験が繰り返されている現実を知るようになりました。容器に使われているプラスチックもほとんどリサイクルされていないことが分かり、世の中の色々な課題が見えてきました。

そのタイミング(高校3年)で気候変動枠組条約締約国会議(COP)に参加する機会を得ることができ、スウェーデンの環境活動家であるグレタさんに会いました。私より2歳年下なのですが、彼女の勇気と行動力に感銘を受け、『自分にもできる』というような可能性を感じました」

気候変動枠組条約締約国会議(COP)に参加。左から2番目が露木さん、中央がグレタさん

その実践として、気候変動をテーマにした講演を全国の中学・高校で行っています。

「人間は生活をしているだけで地球に負荷をかけています。ペットボトル製品を購入する、洋服をたくさん所有する、食べ物を廃棄する、電気を無駄に使うなど、無自覚の行為の積み重ねが今の状況を招いているように思えます。

気候変動では、二酸化炭素(CO2)濃度の増加が地球温暖化の原因とされていますが、私たちが普段の生活でこれを意識することはありません。もし、二酸化炭素が黒色だったとしたら、誰もが危機感を持つはずです。行動や習慣を変えるには、認識することからはじめなければなりません。そのために始めたのが、気候変動の講演です。これまでに訪れた小学校・中学校・高校は約170校、2万5千人の生徒に2050年までに地球の平均気温増加を1.5度未満に抑えること、そのための方策などを自分の言葉で届けました。年齢が近い世代を対象としているのは、発信する情報を受け入れてもらいやすく、行動につながる可能性が高いと考えたからです。

国連の会議に参加して感じたことのひとつに情報格差があります。これが行動格差になっており、世界の中で日本は遅れを取っています。国内では2020年夏にレジ袋が有料化されましたが、ドイツではビニール袋削減の取り組みを2016年から本格化し、成果を上げています。私にできることのひとつが伝えること。各人の意識変化を促すために学校という場所を提供してもらっています」

講演活動で出向いた高校で生徒らと意見交換

先ほどの話しにあった化粧品は、自身のブランドとして販売もされています。

「『Shiina Cosmetics』の名称で展開しています。自宅でつくる口紅のワークショップキットの販売を行ってきましたが、現在はパートナー企業と一緒に製品化も進めています。原料や製造過程で環境に負荷をかけないよう配慮し、パッケージや容器もできるだけリサイクルできる素材を使用する。そうした商品を適正な価格で販売することで、持続可能な経済循環を生み出すことを理想としています。

一方で、口紅は見た目を美しくするというそもそもの役割があり、色の可愛さや香りも大切な要素。エコとおしゃれの両立をめざします。ただ、世の中にこれだけ化粧品があふれかえっている中で、新たな商品を投入することへの違和感はあります。社会問題の解決を目的としたソーシャルビジネスとして、消費者の心を動かすストーリーと新しい付加価値が必要だと考えています」

口紅づくりのワークショップ。国内のみならず海外でも実施。写真はバリ島

2030年を達成期限とするSDGsですが、その時の世界はどんなふうになっていると思いますか? また自分はどうなっていたいですか?

「8年後ですね。現時点では、SDGsという言葉だけが先行していて、理念の浸透や実際の行動が追い付いていないと感じることがあります。言行一致して目標の達成度合が数値でもしっかり示されることが理想ですね。その頃自分は30歳。環境活動をとことんやっていたいですね。矛盾していますが、環境活動家がいなくなることが理想だと思っています。一人ひとりが地球環境を意識して行動する世の中になればと。

化粧品ブランドも成功させたいと思っていますが、これは社会をよくするための手段のひとつにすぎません。もっとインパクトを与えることができるのであれば、臆することなく挑戦しているでしょう。起業だけにこだわっていません。大きな企業に入って、組織の意識改革ができたら、社会的影響力は絶大。自由なスタンスで世の中に貢献していきたいですね」

気候変動を止めるには、政府や企業の大きなシステム変化に加え、個人の意識変化が欠かせないというのが持論。思いを伝えるためためにマイクを握る

【Profile】つゆき・しいな/2001年横浜生まれ、中華街育ち。高校3年間を〝世界一エコな学校〟と呼ばれるインドネシアの「Green School Bali」で過ごす。2018年COP24(気候変動枠組条約締約国会議)、2019年COP25に参加。2019年に慶応大学環境情報学部に入学。気候変動をテーマにした講演活動を全国の中学・高校で行うため、現在休学中。化粧品を開発し、自身のブランド「Shiina Cosmetics」も立ち上げている。

動画はこちら

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公開日:2022-06-09