茅ヶ崎市南湖在住 齋藤 翔太(さいとう・しょうた)さん・菜穂(なほ)さん
ご夫婦ともに横浜市出身。お二人とも学生時代から音楽に親しみ、翔太さんはベーシストとして、菜穂さんは作曲やピアノを中心に活動。のちに飲食業へ転身。2020年5月、新栄町へ「dining bar hina(ダイニングバー ヒナ)」をオープン。2022年4月に生まれたお子さまと3人暮らし。
アットホームな空間で楽しめるこだわりのクラフトジン
茅ヶ崎駅北口から歩いて約30秒。古くは“茅ヶ崎銀座”と親しまれた茅ヶ崎エメロード。2年半前、その玄関口に新たにオープンしたのが「dining bar hina」です。ビルの階段を上って2階入口へ着くと、「こんにちは~!」と店主の齋藤さんご夫妻が温かく迎えてくれました。
お酒を担当するのはバーテンダーであるご主人の翔太さん。カウンターの奥にはこだわりの銘柄がずらりと並びます。
中でも力を入れているのが“クラフトジン”。スタンダードな“ドライジン”と比べてハーブや柑橘の香りが強くついているのが特徴です。「現在は30種類ほど揃えていて、今後も増やしていく予定です。茅ヶ崎市内でもかなり頑張っているほうじゃないかなと思っています。インスタグラムでも入荷したお酒を紹介していて、それを見てリクエストくださるお客様もいらっしゃいます」
おすすめの飲み方を聞くと「ポピュラーなものでは“ジントニック”がありますよね。ただ、トニックウォーターは甘いので、クラフトジンと合わせると香りが消えてしまうことが多いんです。もちろん例外もありますが、本来持っている香りを楽しむにはロックやストレート、ソーダ割りがおすすめです」
お酒が好きという思いからバーで働き始め、10年ほど横浜・石川町のアメリカンバーで経験を積み、茅ヶ崎で自分のお店を構えた翔太さん。お酒へのこだわりは人一倍ありますが、hinaのカウンターではそれ以上に大事にしていることがあります。
「何よりもお客様が親しみやすいアットホームな空間でお酒を楽しんでいただきたいですね。もちろん、こだわりはあります。ただ、それが前面に出る必要はないと思うので、こっそり入れています(笑)。時々こだわりポイントに気づいてもらえることがあって、それがうれしいです」
お酒を引き立たせる、身体にやさしい薬膳おつまみ
クラフトジンへのこだわりとともに他店ではなかなか見られないhinaの特徴が薬膳料理。担当するのは妻の菜穂さんです。
「あくまでも、お店としての軸はお酒を楽しんでいただくことなので、お酒のおつまみとして合うものを中心に提供しています。お店をオープンすると夫婦で目標を持ったのが2016年頃。当初アンチエイジングが流行っていて、バーでそれに代わるものはあるかなと考えたところ、身体に優しい薬膳料理に行き着きました。お酒を飲んでも身体にやさしい料理と一緒なら、プラマイゼロに思ってくれるかなって。もっとも、薬膳の効果以上に皆さんお酒を召し上がるので、本当にプラマイゼロか?という気もしますが(笑)」
薬膳と聞くと、漢方のように香りが独特なものをイメージする方も多いと思いますが、hinaの薬膳は普段みなさんが使っているような食材がメイン。これが薬膳?というような意外なものも多いといいます。
「“栄養価の高い旬の食材を、栄養価の高い状態で食べる”というのが薬膳の基本で、そのために調理方法を工夫します。例えば、ピーマンのまるごと煮。種もワタも食べることができて、栄養素を逃がしません」
甘味もお酒との相性を考えた身体にやさしいメニューを用意。「黒糖とはちみつをからめたサツマイモチップスや、ノンアルコールの甘酒のみを使用して作るサツマイモようかんは日本酒によく合います。あとは看板メニューの1つであるチーズケーキ。ナツメのドライフルーツを使うことで、砂糖の量を元のレシピの半分以下にしています。ウイスキーとの相性がいいんですよ」
お酒に合うおつまみを罪悪感なく楽しんでほしい。そんな思いで提供する薬膳ですが、当初は試行錯誤の連続だったそうです。「お客様が求めているのはやっぱり居酒屋メニューなのかなって思うことがあったんですよね。最初の頃はローストビーフやレバーパテを用意していた。でもある日、浅漬けを出したら「やっぱこれだよね」とたくさんオーダーが入った。そこからメニューを一新したんです」
お客様の声を受けて、お店も進化してきました。「天ぷらをメニューに加えたら日本酒を飲みたいという声をいただいて。正直、日本酒にはあまり詳しくなかったんですが、hinaで飲みたいという声に応えたいなと思って仕入れました。hinaで呑みたい、とおっしゃっていただけるのは嬉しいですよね」
“よく来たね!”茅ヶ崎の人がまとうオープンマインドな雰囲気
hinaに訪れるお客様はどんな人が多いのか?常連様の様子を聞いてみると「まず、茅ヶ崎の人は飲むのが好きだな~と感じます(笑)。年齢層は20代から60代まで幅広くいらっしゃいますね。男女比は半々くらいかな。1人でいらっしゃる女性のお客様も多いです」
茅ヶ崎はよそから来た人にやさしい印象がある、と二人は続けます。「市外の方が“茅ヶ崎って良いところですね!”と言うと、地元の方が“そうでしょ?”と返す。そんなコミュニケーションがよくお店で飛び交ってるんですよ。“茅ヶ崎によく来たね!”というマインドを持っている方が多い気がしますね」
新参者にも温かい飲食店の先輩たち。ベースにあるのは“茅ヶ崎が好き”
個人経営の飲食店が比較的多いと言われる茅ヶ崎。お店を営む人同士の関係も、これまでの職場とは違うものを感じたといいます。「hinaを始めた時、同じ北口のお店の方が“北口を一緒に盛り上げていこう”と声をかけてくださったんです。それだけでなく、“このお店知ってる?”“あのお店もおもしろいよ”と茅ヶ崎のお店のことをいろいろ教えてくれて。新参者が来たと目の敵にされるようなことは全く無かったし、本当にありがたかったです」
hinaがオープンした2020年5月は、新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックがまさに始まった時期。政府から初の緊急事態宣言が発出され、多くの飲食店が休業を余儀なくされました。オープンしたてのhinaもまともに営業できない日々が続き、翔太さんは正直「終わった(笑)」と思ったそう。そんな状況の中、他店の方が温かい言葉をかけてくれたそうです。
「皆さん本当にやさしかったです。縁もゆかりもない地で開店して、コロナ禍でまともに営業できていないことも多かったのに、知り合いはどんどん増えていきました。皆さんと話していると、“自分の店が好き”よりも“茅ヶ崎が好き”という思いがベースにある気がしますね」
ファミリー層や子どもたちにも寄り添った店になりたい
オープンから間もなく2年半。今後のことを聞くと、叶えたいことがたくさんあるようです。
まずは菜穂さん。「小さなお子さんを連れたママパパ会をhinaでできたら素敵だなと思います。子育て中の方が行きやすい場所というと、どうしても限られてきてしまう。子どもが産まれて、自分たちにも育児で必要だと感じるポイントが理解できるようになってきたんです。小さいお子さんがいても、薬膳をつまみながら本格的なお酒を楽しめる。現在、サービスとして離乳食の温めや、粉ミルクの無償提供をしています」
菜穂さんは音楽の分野でも地域とつながりたいと話します。「今年(2022年)の8月にふじさわ市民ミュージカルで3年ぶりに実施した公演“ウィステリアのドラゴン”では劇中曲を作曲させていただきました。これからも地域に浸透しているものに参加できたらと思います」
翔太さんは「正直、今の暮らしを保てればいいです」としつつ、「余裕ができたら、子ども食堂をやってみたいという気持ちがあります。いろんな事情でご飯が食べられない子どもたちがふらっと来られる場所になれたらいいな。あとは湘南祭などイベントにも積極的に参加していきたいです。他にも、茅ヶ崎のお店が集まって合同でイベントを開催、なんてことが実現できたらおもしろいですよね」
「結婚する前のことになりますが、僕は妻に会いに行くのをきっかけに初めて茅ヶ崎を訪れました。電車の駅に降り立った時は潮の香りがして、空が広くていいところじゃん!と思いました。今ではもう離れられないと感じるくらい、茅ヶ崎のことを気に入っています。なので、ぜひまちを盛り上げていきたい。そしてhinaを茅ヶ崎の人々に末永く愛されるお店にしていきたいです」「おじいちゃん、おばあちゃんになってもカウンターに立っていたい」
愛しい我が子に優しい眼差しでミルクをあげながら語ってくれた翔太さん。
茅ヶ崎で産声を上げた“hina”は、大空にはばたいていけるよう今日も歩みを続けます。茅ヶ崎を訪れた際にはぜひ、ふらっと気軽に“美味しいお酒とちょこっと薬膳”を楽しんでみては。
Infomation
■dining bar hina
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