このまちを起点にでかけていき、ここへ帰ってくる。大好きな家族がいる場所。「このまちのこの家がわたしの起点」。近隣のおじいちゃん、おばあちゃんに見守られながら育んできた家族の暮らしをこよなく愛する女性に話を聞きました。
茅ヶ崎市甘沼在住 新井 久美子(あらい・くみこ)さん
栃木県出身、学生時代から都内に住み、結婚を機に茅ヶ崎市へ住むようになり12年。夫と8歳の長男・焰(ほむら)君、犬のこむぎ、リクガメのわらびちゃんの3人と2匹暮らし。焰君の名は「炎」の旧字体から。いくら熱くなって燃え上がっても、茅ヶ崎の海が静めてくれるからと名付けた。ニットアーティスト。「手編屋madacomula」としてハンドメイドのアクセサリーなど制作・販売。
通勤の便利さとまちの名の響きで茅ヶ崎に移住。ここが活動の起点に
都内に暮らしていた久美子さんが結婚を機に茅ヶ崎暮らしを選んだのは、バイク好きな夫が勤務地の平塚にバイクで30分以内で通えること、久美子さんの勤務地の渋谷に1時間で通えること。
「それから、わたしの出身地・栃木の田舎のみんなに言うのに、“茅ヶ崎”の響きがよかったから(笑)。茅ヶ崎は、サザン(SAS)でみんな知ってますから」。
12年目を迎える茅ヶ崎暮らしは、「家族も私もここが活動の拠点。茅ヶ崎でも遊ぶけど、ほかでも遊びます。都内や鎌倉、その先もどこへ行くにも便利。このおうちがあるから、がんばって働いてきて戻ってくる場所です。」
キャンプが大好きな一家は、海沿いの柳島でキャンプをする。市内北部の“里山公園“では、ボールを持っていってサッカーしたり、息子と2人で木の枝を拾ってオブジェを作ったり、鬼ごっごしたり、笹舟を作って流したり。「わたしは栃木の田舎で育ったから、野山で遊んだりするのは自然なこと。子どものころにした遊びを子どもに伝えたい気持ちもあります」
近所のおじいちゃん、おばあちゃんに見守られながら
両親と離れて住んでいるので、焰くんが小さいころ、すぐそばのおばあちゃんが預かってくれたこともあった。都内にいたころは隣の人の顔も知らず暮らしていたが、今は全く違う。
甘沼のこの地は、もともと地元に暮らすおじいちゃん、おばあちゃんがいて、引っ越してきたときから「若い子が来た!」とかわいがってくれた。
焰(ほむら)くんが生まれたとき、お赤飯を炊いて持ってきてくれたり、日頃から叱ってくれたりするおじいちゃんがいて、見守ってくれる。いつも誰かの目があって、この地域に守られて暮らしていると感じる。
近所で火災があったときも、火事と知るや、近隣で「逃げて!」とドアをたたきあった。煙がどこかであがればみんな出てくる。地震や台風のときもそう。一人暮らしの人には「大丈夫?」と電話することもあるという。都内から越してきた若い家族を見過ごさずにいてくれる温かさがある。
海側にない良さがある茅ヶ崎の里山地区。野菜がおいしい、治安もいい、ひともやさしい。
買い物は主にすぐ近くのスーパーへ。「イオンスタイルはちょっとカッコよくて、2階のオシャレなcaféスペースはfreeWi-Fi。だらだら過ごします。」
家族はこのまちを大変気に入っているという。こんなにしっくりくるまちと知らずに住み始めたが、住んだ後も良い印象が変わらない。治安、まちの雰囲気、住んでいる人。
「海側の地区だったら、もしかしたらわたしは雰囲気についていけなかったかも。線路を挟んで北側の山側にあたるこの辺は、海沿いとはまた違って落ち着いた感じです。もともと地元に暮らすお年寄りも多いです。」
圏央道ができて、田舎にも都会にも行ける。茅ヶ崎は都会過ぎず田舎過ぎず。通っていた幼稚園で、農園で一緒に畑をやらせてもらったことも。おかげでオーガニックや無農薬の野菜に興味を持てた。
「野菜の味が濃くておいしいと子どもが言います。野菜を軒先で売っている人もいますし、広い土地を持っている人は敷地内で野菜をつくって、ドア越しに売りに来る人もいます。インターホンをピンポーンと鳴らして、“きゅうり採れたけど、どう?”なんとこともあります(笑)」
こんなふうだからスーパーで野菜を買うことは少ないそうだ。あちこちで開催されているマーケットに出店している農家の味を買うこともある。
家族が大好きな久美子さん。焰君が言う。「僕の顔を見ると、幸せって言ってくれる。」「そう、焰がいてくれるだけでhappy。家族が大好き。」久美子さんが答える。「かかちゃんは、ぼくに知識をくれる。感謝しているの。」と焰君が口に出して感謝を伝える。あまりの仲の良さにジーンとする。まちがゆったりしているからこんな幸せが訪れるのか、こんな家族がいるから、まちの空気がゆったりなのか。どちらが先なのだろう。
茅ヶ崎を起点に、ニットアーティストとして活動中
久美子さんの仕事はニットアーティスト。編み物をメインに、編むことならなんでもやるそうだ。主にオーガニックコットンを使ったアクセサリーを編み、現在4~5店で委託・納品で展示販売をしているほか、市内のフェスや展示会で、子どもたちを毛糸で遊ばせるワークショップを開催するなど、個人事業主として2年、仕事として編み物をしている。
雑貨、衣装のほか、さまざまなオーダーを受ける。イベントではニットライブも行うという。イベント開催時間内にライブでニット帽を編み、完成品をプレゼントする楽しい企画だ。
「編むことに関しては、もう、マニアですね(笑)。編めないものがあるのはイヤ。海外の変わった編み柄を知ると本を取り寄せて編んでみます。世界には変わった道具や毛糸がたくさんあるので、自分がいいなと思うものを集めて販売してみたい。」クリエイティブであり、アーティストであると感じる。インタビューをしているそばで焰君が大人顔負けの難しい折り紙を丁寧に折っていた。1本の糸から編む母、紙1枚から無心に造形をつくる愛息。静かな里山のリビングルームでそんな時間をともに過ごす親子は、なんというか、美しかった。
いつか巣立っていく息子。
いつでも帰ってきていいよと、このまちで、この家で待ちたい。
これからこの茅ヶ崎でどんなふうに暮らしていきたいか。聞くと笑みをたたえ、「ここで死にたいです」ときっぱり。
久美子さん独特の言い回しだが、それほどこのまち、この家が気に入っているということなのだろうと思う。
「ここにいて、子どもが大きくなって出て行ったときに、ここで待っていたい。いつでも帰ってきていいよって」。
ずっと見守ってきてくれた近隣のおじいちゃん、おばあちゃんのことも忘れない。
「みんながボケたときに、私が買い物に行くからね、と言っています(笑)。遠い将来、近くに若い人が引っ越して来たら、わたしが面倒見てあげちゃうかも。きっとそうなると思います。わたしたちがしてもらったように、近隣の先輩方にならって」
Information:
https://www.instagram.com/madacomula/
柳島キャンプ場
https://yc.tsukahara-li.co.jp/
県立茅ヶ崎里山公園
http://www.kanagawa-park.or.jp/satoyama/
海辺の朝市
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/nousui_nogyo/1006519/1022398/index.html