- 2022年11月12日から12月11日まで開催される「MEGURU Project」。浦賀レンガドックを中心に、体験イベントや公演、見学ツアーなど催しがたくさん企画されています。
「浦賀」と聞いて、連想する言葉はなんでしょうか? ペリー、奉行所…そして「ドック」。地元の人にはなじみ深い「浦賀ドック」ですが、そもそもドックとはどんな場所で、どんな役割があったのか? ちょっと寄り道して調べてみました。
【コンテンツ】
◎「DOCK」は船の建造と修理の場所
◎日本最古のレンガ造りドック
◎なぜ浦賀にドックが造られたのか?
◎MEGURU Project2022でドックをもっと知ろう!
◎浦賀の歴史を凝縮
「DOCK」は船の建造と修理の場所
DOG(ドッグ)と言い間違えてしまいそうですが、DOCK(ドック)です。日本語では船渠(せんきょ)とも言います。
船の建造をはじめ修理や係船、荷役作業などのため、湾内を船がすっぽり入るように掘り込んで築造された施設のこと。船は大きくて重いので、完成後にクレーンなどで移動させることはできません。ドックから海へとつながる門を閉めて水を抜くことで、大きな空間ができます。造船や修理・検査など作業をした後は、逆に少しずつ海水を入れていき、そのまま進水できるのです。これが「ドライドック」のしくみ。
船を造るためには欠かせないもので、造船所とドックはセットのようなものなのです。
浦賀のドックはもう使われていませんが、国内で見ると、米軍基地内にある横須賀製鉄所の一号ドックはいまも現役。東京湾内にもいくつかドックがあります。横浜のランドマークタワーに隣接する「ドックヤードガーデン」は、商船用石造りドックとしては最も古い「旧横浜船渠第2号ドック」。国の重要文化財に指定されており、今はライブやパフォーマンスの会場として活用されています。
日本最古のレンガ造りドック
浦賀のドックの特徴は、何といってもレンガで造られているところ。レンガ造りのドライドッグとしては、世界で4カ所(5基)しか存在せず、日本では浦賀にしかない貴重な施設なのです(浦賀湾内の川間ドックもレンガ造りですが、ゲートが撤去されており海中にあります)。
大きさ
(開渠時)長さ:渠底 450尺(136.35m) 幅:渠口下部 59尺(17.88m) 深さ:渠口底中央 29.7尺(9m)
(現在)長さ:渠底 180.3m 幅:渠口下部 25.7m 深さ:渠口底中央 10.9m
使われているレンガは200万個以上。愛知県の根崎煉瓦合資会社(現・岡田煉瓦製造所)が手掛けたもの。その積み方も特徴的で、通称「フランス積み」。フランドル積みとも言われるもので、長短のレンガを交互にきれいに積んでいます。レンガ造りには他にも「イギリス積み」「オランダ積み」と言われる方式もあるのですが、浦賀ドックがフランス積みとなったのは、横須賀造船所を指導したフランス人技師ヴェルニーの影響があった…という説もあります。
表面は華麗な柄が現れていて、「最も煉瓦らしく美しい」といわれています。ドックに下りたら、その壁面をぜひ見てみてください!
なぜ浦賀にドックが造られたのか?
ドックの立地条件としてあげられるのが、海や川に面した平坦な場所で、進水や係留に十分な接水面と水深がある、ということ。東京湾から海が入り込んだような地形をしていて、浦賀湾自体がドックのような形をしています。
そこで少し、造船の歴史を遡ってみましょう。浦賀と造船の関わりはとても古く、ペリー来航の年、幕府が大船建造禁止令を解いた直後の1854年、浦賀奉行所の与力・中島三郎助らにより日本最初の洋式軍艦である鳳凰丸が建造されました。その後、箱館戦争で中島の同志だった荒井郁之助が浦賀に造船所を造ることを提唱。地元の有力者への働きかけで、1897(明治30)年に浦賀船渠株式会社が創設され、2年後に、このドライドックが建造されました。
同社は浦賀重工業を経て住友重機械工業となり、2003(平成15)年に閉鎖されるまでの約100年の間、帆船日本丸はじめ、青函連絡船や護衛艦など官民1,000隻以上の船が建造・修理されました。
閉鎖後は、老朽化などもあって、施設の一部は解体、クレーンは撤去されています。
貴重な施設ということで、保存を願う地元の声も多くあり、活用イベントやシンポジウムなどが開催されていました。そして、2021(令和3)年に、浦賀レンガドックと周辺部が住友重機械工業から横須賀市にドライドックが寄附されました。
- これを機に、浦賀レンガドックを中心とした新たな観光資源をつくる「MEGURU Project(メグルプロジェクト)」が始まったのです。
MEGURU Project2022でドックをもっと知ろう!
2021年に引き続き、2回目となる「MEGURU project」。
文字通り、浦賀ドックを中心に町・海を巡る企画。期間中、ドックの構造や歴史、浦賀の町について学ぶガイドツアーなども用意されています。夜のドックを見学するツアーもあり、上から下から、さまざまな角度から楽しめます。そして注目は、ドック底部を会場にしたライブイベント。非日常的なこの空間で音を奏でるとどのように響いて聞こえるのか、興味深いですね!
- イベント・企画の詳細、申込は「MEGURU project2022」特設サイトhttps://uraga-meguru.jp/
浦賀の歴史を凝縮
今回の取材のため立ち寄ったのが横須賀市の浦賀コミュニティセンター分館。郷土資料館として、浦賀の歴史資料を常設展示しています。
中島三郎助に関する資料や浦賀奉行所のジオラマのほか、浦賀で建造された船の模型もあります。また、浦賀ドックに関する資料では、ドックの作り方を解説したパネルや当時の「建物明細図」なども。ちょっと気になったのが、展示されていた「浦賀船渠社歌」「浦賀ドック音頭」なるレコードと歌詞。「汗と力で仕上げた船が うれしや世界の波を切る」―そんな歌詞も。当時、お祭りで踊って歌ったのでしょうか? 造船で栄えた町の様子が垣間見えます。
資料館には、幕末の西浦賀の街並み模型や地元の左官職人が手掛けた鏝絵、古文書などの資料コーナーもあるので、知識を深めるならぜひ立ち寄ってみてください!
浦賀コミュニティセンター分館2階(郷土資料館) 横須賀市浦賀7-2-1 046-842-4121