箱根旧街道に残る自然や文化の魅力を、形を変えることなく伝えていきたい。そんな思いを共有する地元の飲食店や旅館らによる「箱根寄人(よせびと)プロジェクト」がコロナ禍に立ち上がり、活動を継続している。
水でつながる
かつて宿場町として栄えた旧街道には旅客をもてなす「自然な親切さが存在している」とプロジェクトリーダー原健一郎さん(49)は語る。コロナ禍で人と人とのつながりが希薄になる中で始まったのが「箱根の水」を媒介として旅人たちとコミュニケーションを取ろうという取り組みだ。これまで個別に発揮していたおもてなしの精神を旧街道全体で表現していこうと、2021年秋に協力店舗に給水スポットを開設。マイボトルを持って歩く人に、箱根の水を無償で提供し、給水をきっかけに観光客との交流を図っている。
沢水や湧水、井戸水など水源の異なる水をスポットごとにブレンドしているため、硬度や水素イオン指数(pH)の違いを楽しめる。水質の評価には、箱根町の水道技術管理者、山崎勝弘さんが協力した。プロジェクトのHPで、山崎さんは水の味わいについて「喉をとおり染み込む滋養感」「雑味がない素直な御水」など違いを解説している。町の補助金を活用して、5月には旅館「雉子亭豊栄荘」や飲食店「甘酒茶屋」など5箇所の給水スポットに旗と案内板を設置した。
長い時間軸で見る
「長い時間軸で見て、旧街道の魅力をゆっくり浸透させていけたら」と原さんは話す。「箱根の本当の良さを味わっていただくため」プロジェクト内で並行して、江戸時代に箱根で発見された植物「クロモジ」を使った地域活性化や、1680年に整備された国指定史跡の「石畳」の保全・補修などを行っていくという。水だけではない、箱根の自然や文化の価値を見直し継承していく。
「良くも悪くも時代から取り残されてきた旧街道だが、今はそこに価値が出てきている」。観光地を慌ただしく巡るのではなく、土地の人や自然に触れながら「熟成させる」旅の在り方を模索するプロジェクト。現在は5社が中心だが「箱根を愛し、良さを伝えたい人が集まり活動を少しずつ広げていけたら」としている。