新たなスタイルのサッカークラブとして注目を集める「瀬谷インターナショナルフットボール」(SIF)のこだわりを、多角的に掘り下げるインタビュー。第2弾の今回は組織マネジメントに焦点を当て、土肥賢太代表に話を訊いた。
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時代の逆をいく組織マネジメント
SIFではどのように組織づくりしているのでしょうか。
「まず、子どもたちのスポーツ現場では近年、ボトムアップ方式の組織マネジメントが支持されています。これは選手みんなで考え、みんなの意見を聞きながら組織を作る手法。『近代型』『風通しが良い』『ホワイト組織』などイメージも良く、今の流行りと言えます。しかし、私たちはあえてトップダウン方式の組織マネジメントを採用しており、その原理原則に基づいて指導しています」
改めて「ボトムアップ」と「トップダウン」の特徴を教えてください。
「ボトムアップは下層からの意見や提案を重視し、それを組織全体で共有し決定を行います。対してトップダウンは、リーダーから決定や指示が下され、それを組織が実行する方式です」
社会に出れば99%の組織はトップダウン方式
トップダウン方式を採用している理由は。
「トップダウン方式は古いと思われがちですが、実際にはほぼ全ての会社組織で採用されています。その理由は、長い歴史のなかで様々な利点をもたらしたから。にもかかわらず、多くの人が社会に出るまでトップダウン方式の組織マネジメントを学ぶ機会がありません。学校や学習塾では主に個々の学習が重視され、組織運営を深く学ぶ機会が無いのが現状です」
社会の実態に即した教育が必要ということでしょうか。
「中学生の頃からトップダウン方式の組織マネジメントを教えることで、選手たちが社会に出るときに大きなアドバンテージを持てるようにしています。実際、卒業生たちのなかには、高校進学後にキャプテンや副キャプテンとしてチームを引っ張る選手が多く存在します。彼らは瀬谷インターナショナルで培った組織マネジメントのスキルを活かし、自身のチームを目標へと導いています」
練習ではリーダーが全てを決める
SIFにおけるトップダウン方式の具体的な取り組みを教えてください。
「練習中に選手たち全員で議論して決めるのではなく、一人の選手が全体の構成やグループ構成を決めています。これは、全員で議論することによって余計な議論が生じ、練習が停滞することを防ぐためです。特に、ミニゲームやポゼッション練習といったグループ活動においては、その都度小さなトップダウンのグループを作ることで、効率的かつスピード感あるトレーニングが可能になります」
効率性やスピード感を意識しているわけですね。
「紅白戦などでも、『全員が平等に出場する』など最低限のルールを設けた上で、一人の選手がメンバー構成やグループ構成を決めます。リーダーとなる選手は日によって変わり、基本的には最初に指揮した人の意見が尊重されます。他の選手も意見を出すことは許されていますが、最終決定権は指揮をとる選手に委ねられています。これにより紅白戦前の議論の時間は5分の1以下になるという結果を生み出しています」
従来のトップダウン方式との違い
会社などではトップダウンによる硬直化や不公平感など弊害もあるように思います。
「私たちの組織マネジメントは、従来のトップダウン方式と大きな違いがあります。それはコーチングスタッフが選手たちと友達のように仲良くしている点です。従来のトップダウン方式は数百人以上の会社組織をまとめるもので、リーダーが部下と仲良くしていると、一部の人間が優遇されたり、平等な評価ができないと言った問題点がありました。それは1人のリーダーが数百人と深い関係を築くことが物理的に不可能だからです。しかし、サッカーチームは通常20〜30名で構成され、全ての選手と深いコミュニケーションを図ることができます」
円滑にコミュニケーションできる環境が整っているのですね。
「瀬谷インターナショナルでは全ての選手が深くコミュニケーションしています。また、コーチングスタッフと選手間のコミュニケーションも密です。クラブの練習や試合を見学した人たちから、『選手たちが楽しそうにトレーニングしている姿が印象的』と言われることが多いのですが、その秘密はコミュニケーションの深さにあると言えます」
目標は社会を牽引する人材を育てること
トップダウン方式の学びを通じて、選手はどのように成長しますか。
「ボトムアップ方式が主流のなか、あえてトップダウン方式の組織マネジメントを取り入れ、さらに独自の形にアップグレードしています。選手たちは組織マネジメントを学び、組織の一員として、そしてリーダーとして何をすべきかを理解し、体験することで、未来のリーダーへと成長しています」。
改めて今後の意気込みを。
「トップダウンを採用する独特な方法は時代に逆行するかのように見えるかもしれません。しかし、瀬谷インターナショナルが見据えているのは、未来の社会を牽引する優秀なリーダーを育てることです。そして、その挑戦は今、始まったばかりです」。(了)
インタビューを終えて
一般的なサッカークラブで体得できることと言えば、技術や戦術。頑強な身体を作ることもできる。また、チームプレイを通じて、協調性も育めるだろう。
インタビューで印象的だったことは、SIFがこうしたクラブ在籍時に必要な能力以上に、卒業後、さらに言えば社会で逞しく生きていく「人間力」と呼べるようなものを重視している点だ。トップダウン方式のマネジメントを採用しているのも、そこに起因している。クラブ創設から8年、巣立っていった選手たちの活躍が楽しみでもある。