料理は道具によって、おいしさや出来栄えが変わってきますよね。料理道具の中でも主役と言える包丁(刃物)を専門に扱うお店が、平塚駅前の平塚八幡宮表参道・大門通りにあります。始まりは、安政時代(江戸後期)。初代・島太郎さんが東京の本桝屋というお店で鍛冶屋の修行後に独立し、平塚の大門通りにお店を開いたそうです。
現在、店主の髙橋奈緒子さんが歴史をつないでいる同店は、平塚市で唯一、神奈川県内でも数少ない「刃物専門店」。職人が鍛造(たんぞう)したこだわりの包丁が並んでいます。どんな商品があるのか、髙橋さんがこだわっていることは何か、伺いました!
※鍛造・・・金属を金型で叩くことにより、強度や切れ味が良くなること
刃物専門店の魅力
料理初心者の人はぜひ相談を
「来店されたお客さまにまず確認するのは、自分用かプレゼント用か、右利きか左利きか、切れ味の良い鋼素材かお手入れが簡単なステンレス素材か、などです。お料理初心者の方には、最もポピュラーな『三徳包丁(さんとくぼうちょう)』をご案内しています。実際に握っていただき、ビビッときたものを選んでいただきたいです」と髙橋さん。
三徳包丁と一口に言っても、種類は様々。見た目や重さ、厚みなどの違いがあります。また、お値段が1万円~2万円台と幅もあるため、予算に応じて選ぶのもいいかもしれません。
鋼とステンレスのそれぞれのメリットをよく理解していなかった記者に対して、「鋼は錆びるのでステンレスよりお手入れが必要ですが、ファンが多いです。硬いものほどお値段が高くなりますが、その分刃先が丸くなるスピードが遅いので研ぐ回数を減らせます」と髙橋さんは優しく教えてくれました。
- 一つひとつの商品を丁寧に説明してくれるところが、桝屋さんの一番の魅力。
ホームセンターや100円均一などで手軽に購入できる時代ですが、自分や家族の日々の食事を作る、大事な大事な道具。納得のいくものを使いたいですよね。髙橋さんは「お気に入りの包丁で調理すると楽しい気持ちになります。そうすると、自然においしい料理が作れるんです」と笑顔で話していました。
料理の専門家にも愛される
一般の方はもちろん、料理人や釣った魚を自分でさばく人も同店を利用します。魚をさばく人は、出刃包丁(でばぼうちょう)を。魚のお造りに使う人は、柳刃包丁(やなぎばぼうちょう)を購入します。大きな食材にも対応でき、肉や魚を切るのに適している牛刀(ぎゅうとう)も種類が豊富にありました。
2017年に東京で開催された「第6回全国逸品セレクション」でグランプリに輝いた「手打目立銅卸金(てうちめたてどうおろしがね)」は、目立てしている刃一つひとつが包丁と同じ切れ味を持ち、大根をすりおろすとふわふわした淡雪のような舌触りになるのが特徴です。
包丁研ぎの依頼もOK
刃物は使っていると、どうしても刃先が摩耗して食材などをうまく切れなくなっていきます。そんな時は、桝屋さんに相談してみてください。桝屋さんが預かり、本場・福井県越前市の腕のいい職人さんが研いでくれます。1週間から10日間で仕上げてくれるとのこと。料金は、三徳包丁であれば、1500円(税込)です。
「包丁を研ぐタイミングは、人それぞれ。使い始めてからどれくらい経過したかではなく、トマトがきれいに切れなくなった、ネギがつながってしまうようになったと思ったら、教えてください」と髙橋さん。
- 鋼でもステンレスでも、年に2回研ぐ方が多いそうですよ。
亡き夫の遺志引き継ぐ
職人の伝統技術を守る
大磯町出身の髙橋さんは2013年に、3歳年上で当時店主だった髙橋經祺(つねき)さんと結婚。經祺さんは、刃物の産地・越前武生で5年かけて刃付けの修行をした後、桝屋の跡継ぎとして、地元平塚でお店を営んでいました。しかし、2015年、妻である髙橋さんと生まれたばかりの娘を残して、病でこの世を去ってしまったのです。若干41歳でした。悲しみと同時に、お店を続けていけるか悩んだ髙橋さんでしたが、大好きな經祺さんの思いを引き継ぐことを決めました。
髙橋さんは「桝屋では、夫がそうしていたように、安売りはしていないんです。鍛冶屋さんが出した金額で販売しています。価格を下げることは、職人さんの腕を落とすことにつながるからです。夫の考えを引き継いでいます」と力強く話してくれました。「お客様に実際に商品を手に取ってもらい、その人に合ったものを提供したい」とインターネット販売をしないという同店の方針も、經祺さんの思いからでした。
お店づくり
經祺さんは、店内の雰囲気作りにもこだわっていていました。歴史を感じる小上がり畳を取り入れたり、お客様にゆっくり商品を選んでもらえるように、冬は火鉢に鉄瓶をかけ店内でお茶を出したり、夏は水琴窟の音色で涼しさを演出したり・・・
髙橋さんも常にお客様に寄り添った店内作り、接客を心がけています。
大門会
大門通りの商店会である「大門会」。通りが以前のような賑わいを取り戻せるように様々な事業に取り組んでいて、9月は「ぼんぼり市」、11月は「大門市」、元旦は「渡り初め」を行っています。渡り初めは、大門通りから平塚八幡宮の国道1号を横断できるというもの。普段は横断できないので、年に1回の特別な機会になっています。時間は午前11時~午後3時。
髙橋さんは、大門会の会長を務めていた經祺さんのためにも、仲間と共に運営に携わっています。
店主と母の両立
前述した通り、髙橋さんには一人娘がいます。「一人で営んでいるので、娘が風邪をひいたり、運動会があったりすると、お店を閉めさせてもらうことがあります。お客様には迷惑をかけてしまっている」と申し訳なさそうにする姿がありました。しかし、「お店を優先して家族に負担をかけていることもある。できる限り、お店、家族、自分の3つとも大事にやっていきたい」と思いを打ち明けてくれました。
娘さんが一緒に店番してくれることもあると言います。「娘には、元気にキラキラ働いている私を見てもらいたい。普段は、2人で歌ったり踊ったりする仲良し親子です」と笑う。
クリスマスプレゼント
最後に桝屋さんから、うれしいお知らせです。
「『このサイト(タウンニュース、レアリア、湘南のプロフェッショナルたち、どれでもOK)を見た』と言ってくれたお客様にクリスマスプレゼントをお渡しします。購入しなくても大丈夫です」とのこと。※2023年12月末まで
みなさんぜひ、お店に行ってみてくださいね!