小田原市出身の吉宮晴紀さん(25)が建築スケッチを通じて、宿の魅力を発信している。これまでに描き溜めたスケッチをまとめた『ときを感じる お宿図鑑』(学芸出版社)を出版し、話題を呼んでいる。
吉宮さんは、現在千葉大学大学院で建築学を学ぶ2年生。5歳から高校までを小田原で過ごし、大学進学を機に千葉へ。現在は、実家のある小田原と千葉の2拠点で生活している。
「建築学生の呟き」というアカウント名で、学生目線で建築物などについてSNSで発信してきた。大学3年時にコロナ禍になり外出自粛で実家にこもる日々を送る中で、ふと過去に家族で宿泊した日本の伝統的な宿のスケッチを描き、投稿してみたという。部屋の間取りなど構造にも注目した建築学生ならではのスケッチが、SNS上でさまざまな人の目に留まり思わぬ好評価を得た。
「コロナ禍で悲鳴を上げる宿泊業をなんとか支援できないか」とそんな思いもあり、文化財として有名な宿から観光地と観光地の隙間にある宿まで、泊まってはスケッチを投稿するように。2021年からは、魅力的な古い宿を紹介する情報サイト「ときやど」もオープンさせた。
断面で伝える構造
宿に着くと間取りなどをまず確認。描く場所を決めると、B5の無地のノートにボールペンで下書きもなく書き進めていく。平面ではなく、断面を意識した独自の視点。「宿は増築も多い。柱や壁がどうつながっているか、断面にするとわかることもある」。宿の主人などに話を聞き、メモを加えて自宅に戻った後に完成させる。これまでにスケッチした宿は100軒を超え、一般的なガイドブックには載っていない情報は常に注目を集めてきたが「SNSではすでに宿が好きな人たちにしか届かない。もっと広い層に届けたい」と出版を思い立った。20の出版社からオファーがあったという。
大学院を1年間休学して出版準備に充て、東北から九州・沖縄まで、選りすぐりの35軒に絞り、見所を建物のスケッチと写真でまとめ、今年5月に出版。県内では「ホテルニューグランド」「塔ノ沢温泉 元湯環翠楼」なども紹介されている。また、宿の変遷、宿泊の作法などが学べるコラムも掲載。吉宮さんは「美しい宿は意外にも身近に散らばっている。宿の新しい楽しみ方を提案できれば」と話している。