新型コロナウイルスの影響で、日本屈指の人気を誇る市内3つの海水浴場が今夏開設されないことになった。県が示した感染予防策などの徹底が「遵守困難」として、1日、海の家を運営する3つの組合が合同で発表した。関係者によると中止は「戦後ではおそらく初」という。同日までに茅ヶ崎や鎌倉など近隣市も中止を決めており、今夏は湘南一帯の風景が一変しそうだ。
海の家関係者「断腸の思い」
「本当に残念。(夏)来てくれた人にはごめんなさいと言うしかない」同日、市役所で行われた記者会見で江の島海水浴場協同組合の森井裕幸理事長は断腸の思いでの決断だったと明かした。
この日は江の島海水浴場営業組合の臼田征弘組合長、辻堂海水浴場協同組合の金山永二理事長とともに鈴木恒夫市長に中止を報告。合わせて海水浴場が開かれないことで海岸が「無法地帯」とならないよう安全対策を求めた。
実現にはハードルが高く
海水浴場の開設を巡っては、先月下旬、県が海の家の完全予約制やソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保など、感染予防策の徹底を指示。たが実現にはハードルが高く、「県のガイドラインに沿ってやっていくのは到底無理」(森井理事長)と見送りを決めたという。
苦境に追い打ち
市によると2018年度の片瀬西浜・鵠沼海水浴場の利用者は約101万4千人で全国トップ。3つの海水浴場合わせて同年は約157万人が訪れた。ただ、近年はレジャーの多様化により、海水浴客数自体は減少傾向にある。
またコロナ禍でインバウンド(訪日外国人客)需要が激減。さらに学校の夏休みが短縮され、学生や家族連れも来客が見通せない中で、誘客を制限する県の方針が追い打ちをかけた格好だ。ある海の家関係者は「ひと夏1千万近い売り上げがあったのは昔の話で今は2、300万がせいぜい。県の方針ではとても採算が合わず、感染者が出るかもしれないリスクを冒して営業するメリットがない」と肩を落とした。
「無秩序」懸念 安全策が急務
海水浴場の開設中止は、今夏の海の安全にも影を落とす。ライフセーバーは例年、開設者である組合が関係団体に委託。海水浴場が開設されなくても一定の来客は見込まれ、水難事故のリスクが高まる。
また海水浴客とマリンスポーツを楽しむ人、漁業関係者とのエリア分けがなくなれば、当事者間のトラブル増加も懸念される。さらに毎年行政機関や海水浴場関係者、地元経済団体などが構成する市夏期海岸対策協議会が海水浴客らのルールを定めているが、海水浴場開設が前提で、適用できるかは不透明だ。
一方、海岸法では海岸区域の管理者は県と規定されている。この日の会見で安全対策について問われた市は「一義的には県にお願いをしていく」とした上で「仮にライフセーバーなどを置かないということになれば、市単独でも配置できるよう検討していく」と述べた。