鎌倉文学館では、創作者として生活者として鎌倉で20年余りを過ごした井上ひさしの没後10年を記念し、初の特別展「井上ひさし、鎌倉の日々」を開催している。
生活者としての姿も展示
第1部では、緑地保全運動や憲法問題などに力を注いだ「生活者」としての活動を、平成史とともに紹介。第2部では、鎌倉で小説「東慶寺花だより」「一週間」、戯曲「父と暮せば」「ムサシ」「組曲虐殺」など、多くの小説・戯曲を発表した「創作者」としての活動を紹介する。
原稿や創作にまつわる資料など
同館では「原稿や創作にまつわる資料のほか、彼のエッセイや小説、戯曲など、作品中の言葉も味わいながら、2つの視点で鑑賞できます。最後の戯曲『組曲虐殺』で小林多喜二に『あとにつづくものを信じて走れ』と歌わせた井上。彼が『あとにつづくもの』のために魂を込め紡いだ言葉の数々は、この未曾有の困難の中で生きる私たちを、なぐさめ、そして立ち向かう勇気を与えてくれます」と話す。
同展は8月23日(日)まで。入館料は一般500円。時間は午前9時から午後4時まで(入館は3時30分まで)。8月10日(月)を除く月曜日休館。
(問)同館【電話】0467・23・3911
”心友”との半世紀つづる 小川荘六さんが上梓
小川荘六さん(84歳・横須賀市在住)が、故・井上ひさしとの半世紀以上にわたる交流をつづった「心友 素顔の井上ひさし」(作品社・税別2200円)=写真=をこのほど刊行した。
数々の思い出やエピソードを執筆
上智大学で出会って以来、54年間交流を絶やさなかったという2人。ある企画で、井上との数々の思い出やエピソードを語った際、周囲から本を執筆してはという声が上がった。「書くことは素人」だったこともあり、即座に断ったというが、長年井上を担当してきた編集者からの「語り部として後世に残すのが親友の責任」という言葉に背中を押され、筆を執ったという。
世間ではあまり知られていない逸話も
同書には、井上が在学時に小川さんの実家を度々訪れ、寝泊まりしていた話や2人で観た映画など、世間ではあまり知られていない逸話がちりばめられている。
”心友”と互いに呼び合った仲だけあって、井上が肺がんで亡くなった時はショックのあまり1年以上気力を失ったという小川さん。「井上との出会いがない人生なんて考えられない。この本が人との出会いや付き合い方を見直すきっかけになれば」と話す。
「彼は分け隔てなく誰にでもまっすぐ。私も言いたいことははっきり言う」。政治や社会問題について議論が始まると、徹夜の覚悟が必要だった。互いにヘビースモーカーで、明け方には吸い殻がこんもり。それは歳を重ねても変わらなかった。「『天国や極楽は善良で真面目な人がいくところだから、面白い人間が集まっているのは地獄らしい』と言っていたから、彼は今頃地獄にいる。もう少し待ってろよ、缶ピースを持っていくから」