港北区師岡町にある師岡熊野神社(石川正人宮司)は2024年、創建1300年を迎えました。
聖武天皇時代の724年に全寿仙人によって開かれた師岡熊野神社は、関東で初めて祀られた熊野神社と伝えられ、関東地方における熊野信仰の根拠地として、また、横浜北部の総鎮守の宮として広く崇敬を集めてきました。
節目を迎え、石川宮司は「ご神徳が多くの人々に降り注ぐことを願うばかり」と地域の安寧を祈り、「1300年は次の100年へのスタートの年」と未来に目を向けています。
御神紋は、導きの神「八咫烏」
国産み神話で知られる伊邪那美命(いざなみのみこと)、事解之男命(ことさかのおのみこと)、速玉之男命(はやたまのおのみこと)を御祭神とする師岡熊野神社は、和歌山の熊野三山(本宮大社、那智大社、速玉大社)を本社としています。
仁和元年(885年)には光孝天皇の勅使が下向され、「関東随一大霊験所熊埜宮」の勅額を賜りました。北条早雲公、徳川家康公、徳川家光公、徳川家綱公より御朱印地を戴いたのをはじめ、代々の将軍家の崇敬が篤く、同神社への御朱印が幕末まで続けられたと記録されています。
御神紋は八咫烏。この三つ足の烏は人生の導きの神、また、足の守護神ともいわれ、熊野の神の使いとして神武天皇の御東征の導き役を果たしたと伝えられています。
八咫烏はサッカー日本代表チームの胸のエンブレムにも刻まれ、同神社では、この八咫烏をあしらった(公財)日本サッカー協会公認の「サッカー御守り」の頒布も行っています。サッカー日本代表チームのマークに推奨されたのは、熊野三社の御神紋でもある八咫烏が3本足で、足に縁があることなどからだそうです。
語り継がれる「いのち」の池
境内には古い言い伝えとともに、「い」の池、「の」の池があり、今は埋め立てられ大曽根第二の池と呼ばれていました。
「い」の池は神社の前にあり、平仮名の「い」の字の形をしています。氏子や地域の人々らに大切にされてきた「い」の池には、「権現様が悪者を退治した際に片目を射られると、池に棲む鯉が自身の美しい目を差し出した」という鯉の伝説が残されています。
「の」の池は、同神社草創の地。池の水は禅定水と呼ばれ、どんな干天でも涸れず、大雨でも水があふれないと言われています。南北朝期の落雷による火災で社殿が消失した際、新宝・神体等をこの池に投げ入れ、焼失を免れたそうです。
広がる水の恵み
社殿裏手に整備されている庭園「令和神苑」では、臥龍の瀬などを豊かな水が流れ、庭園に潤いをもたらしています。その水は、境内地下36mからくみ上げられた井戸水で、一日の湧出量は120tにも達します。
「神様の恵み」(石川宮司)というその水を、「い」の池に送る構想が今、現実味を帯びてきています。それに伴い、「い」の池のリニューアルが進めば、地域の人々がより一層、憩い、安らげる場へと生まれ変わることでしょう。
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年間通じ、続々と記念事業
創建1300年を迎えた師岡熊野神社では、様々な記念事業が計画されています。
4月29日には氏子が製作した宮神輿が奉納されました。同神社にとって初の宮神輿を地域とのつながりのシンボルとして、さらなる発展が期待されます。奉納の際には式典も行われました。宮神輿とは神社が保有する神輿で、町会の神輿は一般的に町神輿などと呼ばれています。
また、秋頃には社殿への昇降機が設置される予定です。場所は社殿に向かって左側。これにより、高齢者や足の不自由な人の負担が格段に軽減されることになります。
10月中旬には奉祝大祭が行われる予定もあります。多くの関係者とともに、これまでの神社の歩みを振り返り、また、これからの100年、その先に込めた思いを分かち合う機会になります。
2024年 師岡熊野神社創建千三百年祭奉祝行事
日時 | 内容 | 場所 |
4月29日(祝・月)10時~12時 | 宮神輿納受・奉納・引き継ぎ式 | 師岡熊野神社境内 |
6月2日(日)10時~12時 | 宮神輿お披露目渡御 | 杉山神社~宮前通り(沼上耕地公園~神社鳥居前)~法華寺~神社境内 |
8月24日(土) | 例大祭 | 師岡熊野神社 |
10月15日(火) | 熊野神社主催 創建千三百年奉祝大祭 | 師岡熊野神社 |
10月19日(土)・20日(日) | 奉祝大祭神賑行事 |
各谷戸神酒所 師岡熊野神社境内 |
11月末 | 奉納品奉納式 | 師岡熊野神社 |
古式に則った伝統行事を次世代へ
吉凶占う筒粥神事
その年の農作物の収穫や世の中の景気などを占う筒粥神事は、2024年(毎年1月14日午後2時から)で1075回目となりました。
筒粥神事では、大釜に27本の葭の筒と米を入れ、そこに御神水を加えて炊き上げます。石川宮司が葭を引き上げ、総代立ち合いのもと、それぞれの筒に詰まっている米の粥の量により作物等の吉凶を占います。
息災願う夏越の大祓
茅の輪をくぐることで清い心に立ち帰り、残り半年の無病息災を願う夏越の大祓(毎年6月30日午後2時から)も恒例の神事です。暑さにもかかわらず、毎年多くの参列者で賑わいます。
罪穢れを祓い清く生まれ変わることから胎内くぐりとも言われ、参列者は、自身や家族の健康、感染症の終息、世界の紛争の早期終結などを願います。
「時代の声聞き、伝統継ぐ」
石川宮司より
大きな節目を迎えた今、石川宮司よりご挨拶があります。
「思えば昭和46年の大晦日の晩、正面の石段を電球で照らし境内で焚火をして、初めて初詣の方々をお迎えしたのがはじまりでした。爾来、多くの崇敬者の皆様の深いご理解を賜り、地域の発展とも相俟って当神社は変容をしてまいりました。
今般、1300年の佳節を迎え、熊野の神様の広大無辺なる御神威を更に多くの皆様に伝えるべく、この節目を意義深いものにしなければならないと思います。そのために新しい時代の要求が何なのかという事に耳をそばだてつつ、奈良朝以来の古き伝統を確かに次の時代へと継いでゆきたいと考えています」
石川宮司のメッセージ動画もありますので、ぜひご覧ください。
地域とともに歩み、1300年もの間、多くの人々の崇敬を集めてきた師岡熊野神社。ぜひ境内に身を置き、人々の思い、古よりの時、歴史に触れてみてはいかがでしょうか。
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