東海大学・小坂真理准教授にインタビュー 「誰一人取り残さない」社会へ

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東海大学・小坂真理准教授にインタビュー  「誰一人取り残さない」社会へ
東海大学・小坂真理准教授

 国連で2015年に採択されるやいなや、急速に世界に広まったSDGs。折り返し地点をすぎたものの、このままでは目標達成が厳しいという声があります。私たちは何に取り組むべきか、東海大学の小坂真理准教授に話を聞きました。

◆小坂さんがSDGsに携わったきっかけは?

 ずっと気候変動の仕事をしていました。ドイツでパリ協定に関する交渉支援の仕事を終え、2014年に日本に帰国後、 SDGsの研究をするようになりました。

 SDGsは当時、「環境の目標」という偏った捉え方をしてしまっていたのですが、今は「社会から取り残された人々や 生きづらいと考えてる人が、少しでもより良い生活を過ごすための目標」と思っています。

SDGs≠環境

◆取り組む上で意識することは

 一つでも良いので何か目標に向けて行動すると、さらに課題がみつかり、全ての目標につながっていきます。環境問題は、飢餓など極度に貧しい生活をしている人たちに一番影響を与えますが、私たちの生活にも大きく影響します。

 例えば気候変動による大雨で、堤防が決壊し、いくつもの家や職場が流された場合、住み慣れた土地を離れる、あるいは収入が減るということにつながります。目標13の気候変動問題は、目標1の貧困や目標11の住居といった社会問題にも密接に関連しているという理解が必要です。

 メディアの影響で、SDGs=環境問題を解決しないといけない、と考える人がほとんどなのですが、根底にあるのは「誰一人取り残さない」こと。貧困の子どもたちの存在は、遠い世界のことだと思っている人もいますが、日本でもこども食堂に頼らざるを得ない人が身近にもいるかもしれないという想像力が大切です。

 私が教える大学生も多くが「SDGs=環境」と考えてしまっています。そう考えてしまう理由は2つ。1つはメディアの取り扱い方。もう1つが中高時代の授業です。どちらもSDGsを取り扱う際、フードロスやプラスチックごみ問題が多く、引きこもりや介護と仕事の両立で苦しんでいる人、ホームレスへの取り組みなどは、SDGsや持続可能性(サステナブル)の活動として扱っていないためです。

関連しあう目標

◆SDGsは元々※1MDGsがスタートだった

 MDGsは2000年にできた途上国の国際開発目標です。MDGsの実施期間が終盤に近付いたころ、12年に開催された「※2リオプラス20」で、持続可能な開発の目標に関する交渉を開始することが決まりました。そして15年にSDGsを含んだ合意文書「※32030アジェンダ」が国連で採択されました。SDGsは先進国と途上国の双方が取り組む国際目標です。

 SDGsは、誰一人取り残さない「包摂性」とそれぞれの問題は互いに関連し合っている「統合性」が重要なキーワードです。環境と経済、社会が1つにまとめた目標になったことでシナジー(相乗)効果を与えているところ、逆にマイナスの影響を与えているところなど相関性が解りやすくなりました。

 17のゴールに「人権」はありませんが、※3「20300アジェンダ」には人権や法の人の平等、人間の尊厳などがしっかり書かれています。

 企業活動における人権問題は、国際的には2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されました。日本の企業では外国人の労働問題やジェンダーに関する問題などの取り組みが遅れていると言われています。認証制度などを導入することで、基準が示され、何をしなくてはいけないかが明確になります。就職活動をする学生や投資家から「選ばれる企業」となる目安になるはずです。

他者への働きかけ

◆2030年の目標達成のために具体的にできることは

 2030年にSDGsが掲げる目標を達成するため、今何をすべきかを考えた場合、社会的な変革を起こすような取り組みが重要です。そのためには自分が「できるレベルのことをする」のと同様に「他者に働きかける」ことが大切です。

 自分でできることは、例えば物を選ぶときに1円でも安いものを、ではなく商品の成り立ちや過程まで考え、例えば原材料、製造過程で人権に配慮した製品やCO2を排出しない家電を選ぶなどです。

 他者への働きかけではスウェーデンの環境活動家・グレタ・トゥンベリさんがよく知られていますが、政策に働きかけるためデモに参加することも一つ。また自分たちが住む街で募集しているパブリックコメントの提出も大切だと考えます。行動をとることで方向性が変わり、問題が可視化されることもあります。

◆メディアの役割は

 先駆的な取り組みをする企業の多くの事例を紹介することで、他者が追随する道も開けるのではないかと思います。

◆読者に向けて

 「自分には関係ない」という思い込みをしないで欲しいです。無駄な努力はありません。

 世の中の問題を自分ごととして考えらるよう、身体的に悩んでいる人の疑似体験ができるVR技術も開発されています。妊婦や認知症患者を理解するための体験イベントなどがあれば、積極的に参加して欲しいです。

【用語解説】

※1・2000年9月の「国連ミレニアムサミット」で採択された極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げた。一定の成果をあげ、貧困撲滅など一部の未達成の目標はSDGsに引きつがれた。
※2・1992年開催の「国連環境開発会議」から20年後の2012年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた「国連持続可能な開発会議」。
※3・国および企業に人権の保護、尊重への取り組みを促す指導原則。2011年に国連人権理事会において採択。

公開日:2024-06-13

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