茅ヶ崎市・梅田中学校3年生の近藤鉄平さんは、自ら3D CAD(スリーディーキャド)(※)でモデリング(設計)し、自動的に3Dプリンタで組み立てられたスコップで、海岸のプラスチックごみを拾う活動をはじめました。生まれつき「筋ジストロフィー」という難病で、車いす生活を送る近藤さん。「これまで助けてもらうことが多かった。モデリングで、誰かの役に立てれば」と話します。※3D CAD…仮想の3次元空間上に立体的な形状を設計する、パソコンのソフトウェア。
2021年5月8日、茅ヶ崎海岸のヘッドランドビーチ(Tバー)に訪れると、ビーチ用の車いすに乗り、プラスチックを拾う近藤さんの姿が。スコップで浜辺をすくうと、細かな砂の粒子は網目からこぼれ落ち、プラスチックの断片が残ります。
左右10cm、上下20cm、高さ2・5cmのスコップ面は、近藤さんがモデリング。3Dプリンタと「PLA」という穀物由来のプラスチック素材を用いて成型しました。
取っ手部分は、市販のフラフープの一部を活用。湾曲の角度が「車いすに乗りながら拾うにはちょうど良いんです」と近藤さんは話します。
このスコップが生まれるまで、たくさんの試行錯誤がありました。網目が大きすぎるとプラスチックが脱落し、小さすぎると砂が詰まってしまいます。フラフープとの接続箇所も、抜け落ちないように微調整を重ねました。
砂に差し込む際の角度に改良の余地があるそうで、「さらに工夫を加えたい」と、浜辺でひときわ輝く笑顔を見せる近藤さん。スコップは、市内の障害者や家族から構成される団体「Challenged」が6月に開催する、プラスチック回収イベントで活用予定です。
「僕の一番弟子」
3D CADとの出会いは、2020年1月頃。ものづくり講師などをしている木村朋道さん(51/茅ヶ崎市十間坂在住)と知り合ったのがきっかけです。
3D CADや3Dプリンタは、かつては企業の試作品づくりなどで使われることが多いものでした。しかし現在では、無料で利用できる設計ソフトが普及。プリンタも1万円代から購入できるようになるなど一般化しています。そんな中、動作の困難を補う「自助具」を、自分の身体に適したかたちで作る活用方法が普及しつつあります。それを知った近藤さんは、木村さんに「弟子入り」しました。
最初は、携帯電話を立てかけるスタンドづくりからスタート。めきめきと腕を上げ、現在は外部の依頼を受けて、ジョイスティック(入力機器)の練習台などを設計しています。木村さんは「本当に飲みこみが早い。僕の一番弟子です」と太鼓判を押します。
小学4年生の頃からの車いす生活では、「誰かに助けてもらうこと」が多かった近藤さん。しかし今は「誰かの役に立つ経験」が増えています。プラスチック回収も、生まれ育った地域への貢献という思いが出発点。母の啓子さんは、「学校などでも積極的になった。自信がついているのがわかる」と目を細めます。
3D CADと出会い、輝きを増し続けている近藤さんは、「これからも、世界にひとつしかない物を作りたい」と話しています。