明月院(山ノ内)は、源頼朝に従った武将、山ノ内経俊(つねとし)が、平治の乱(1159年)で戦死した父の菩提を弔うため、この地に明月庵を創建したことに始まる。境内には、鎌倉十井(じっせい)の一つ「瓶(つるべ)ノ井」や、鎌倉で最大の「明月院やぐら」などの見所も多い。
「紫陽花寺」として有名な明月院だが、ここでは四季を通して様々な花と出会うことができる。
初春の頃は蝋梅(ろうばい)。其処ここに咲く黄色い花々の甘い香りが境内全体を包み込む。
陽春の頃は枝垂桜(しだれざくら)。山門付近で薄紅色のヴェールのように咲き、枯山水の庭園にも彩(いろどり)を添える。
初夏には本堂後(うしろ)庭園で花菖蒲(しょうぶ)が咲き出す。円窓から見える花々は、新緑も鮮やかな谷戸の中で、落ち着いた和の世界を醸(かも)し出してくれる。
梅雨の頃は境内一面が姫紫陽花の「明月院ブルー」に染まっていく。参道の両側に咲き続く花々は、量感も豊かで見事というほかはない。
秋は鎌倉市の花でもある笹竜胆(りんどう)。月笑軒の前の苔むした庭一帯に濃紺の花が群生して咲く。かたや月の広場には、赤や青など色とりどりの薔薇(ばら)も咲き揃う。
初冬の頃は紅葉(もみじ)。桂橋付近から見上げる紅葉は、冬晴れの青空とのコントラストで一層映えわたる。そして、円窓を通して見る後庭園の紅葉は、一幅(いっぷく)の絵画のように美しく、この時期一番の見所である。
明月院では、四季折々に咲く花が訪れる人々に憩いと安らぎを与えてくれる。
石塚裕之