横浜市には、「地域子育て支援拠点」と呼ばれる施設が各区に設置されています。神奈川区では、JR・京急東神奈川駅徒歩3分のアクセスのよい場所に地域子育て支援拠点「かなーちえ」があります。
- 今回は、「かなーちえ」を詳しく紹介するため、スタッフや利用者に取材しました。
【目次】
◎かなーちえってどんな施設?
ー親子の居場所
ー子育てに関する相談
ー分かりやすい情報発信
ー子育て支援のネットワーク
ー地域で子育てをサポートする人材づくり
◎かなーちえのスタッフってこんな人!
ー居心地の良い、温かい場所に惹かれ
ー子どもの病気や障害のことが共有できる場所
◎かなーちえがこれから目指すこと
◎取材を終えて
かなーちえってどんな施設?
親子の居場所
保護者と子どもが遊び、交流できる「親子のひろば」があります。
- 毎週火曜日から土曜日の午前9時30分から午後3時30分に利用できます。
- 未就学児が対象で、兄弟姉妹も使用できます。
- 土曜日は小学生がボランティアで絵本を読んでくれたり、子どもと遊んでくれたりします。
- 新型コロナウイルス感染症の感染予防のため、現在は午前と午後で入れ替え制となっています。
Topic1 かなーちえでは、ほぼ毎日「いろいろタイム」を開催
「産後ヨガ」や「パパたちの子育てトーク」など、ほぼ毎日子育てに関する「いろいろタイム」を開催しています。利用者の意見やニーズを汲み取り、地域のネットワークを活かすことで、どんどん企画が生まれていきます。また、新型コロナウイルス感染症の流行下では、オンラインイベントも実施しています。
子育てに関する相談
子育てに関する相談は、常駐しているスタッフと日々の会話を交わしながら気軽にできます。その他、臨床心理士や心理カウンセラー、言語聴覚士、栄養士などの専門相談日があります。
- 相談は、遊んでいる子どもを見守りながら、何気ない声かけをするところから始まり、相談者の気持ちに寄り添っています。
- 相談の中で、一人ひとりにあった情報などを伝えています。
- 相談内容により、区役所などの関係機関とも連携し、サポートしています。
分かりやすい情報発信
地域子育て支援拠点として、子育てに役立つ情報を発信するほか、地域の情報を収集し、提供することも一つの大きな機能です。
- 保育園の園庭開放やプレイパークなどの親子の居場所の情報等も提供しています。
- 地域別のイベントカレンダーを発行し、利用者に配布するほか、230カ所の施設にも配っています。
- スタッフの9割以上が神奈川区内に在住しており、親子が利用できる場所に対して常にアンテナを張り、ときには足を運びながら情報を収集し、利用者へ発信しています。
子育て支援のネットワーク
子育て支援に関わる方々と共に地域のネットワークを構築しています。
- 年に数回、区内を中心に子育てに関わる人・団体・施設が集まるネットワーク交流会やいろいろな学びタイムを開催。分野を超えて共通するテーマを持ち寄ったり、多くの人の知恵を借りながら、語りあって学び合う機会を創っています。(テーマ例:福祉分野にプロジェクトマネジメントのスキルを!」、「プロの記者がやってくる!まわしよみ新聞で発信力UP」)
- 地域の方が講師を務め、「ちえのわタイム」と呼ばれる時間をひろばなどで実施しています。(テーマ例:「読み聞かせ・わらべ歌遊びの魅力」、「おもちゃの病院」、「骨盤エクササイズ」)
地域で子育てをサポートする人材づくり
子育て支援に関わる方々向けの研修会を区内各地で実施しています。
- スタッフが各地に出向き、親子が気軽に立ち寄りやすい場づくりの在り方などをワークショップを通じて語り合い、学び合いながら研修会を行っています。
- 子育てに思いを寄せる方々が集まることで新たな交流が生まれたり、相互のスキルアップを図っています。
- 地域で子どもを預かってほしい人と預かる人(有償)のコーディネーターや調整を行う事務局機能も担っています(横浜子育てサポートシステム)。
- 「横浜子育てパートナー」と呼ばれる専任スタッフが、子育て期の悩み事や困り事について、必要な情報を調べ、適切な支援機関を紹介する個別支援と様々な施設・機関、地域の方々との連携を図る地域支援を実施しています。(利用者支援事業)。
Topic2 「かなーちえ」の由来
『かなーちえ』という名称は神奈川区の「かな」に、優しいとか慈しむなどの意味を持つ『cherish(チェリッシュ)』という言葉をかけ合わせた名称です。2007年の開設時に、名称を公募し集まった約40通の中から決まったそうです。公募で決まった名称に、「つながる!ちえのわ♪ひとのわ♪」のキャッチコピーを添えて、神奈川区子育て支援拠点「かなーちえ」はスタートしました。
かなーちえのスタッフってこんな人!
かなーちえでは、もともと施設を利用していた方がスタッフとなり、子育て支援の担い手となるつながりも生まれてきています。2人のスタッフの方にお話を聞きました。
居心地の良い、温かい場所に惹かれ
1人目は、山口陽子さん。かなーちえに訪れたのは10年前。出産ギリギリまで仕事をして、出産後の時間をどう過ごせばよいかわからず、悩んでいました。ある日、マンションのエレベータで知り合ったお母さんに、かなーちえを教えてもらい、一歩を踏み出しました。初日、スタッフからの「来てくれてありがとう」と迎えられ、あっという間に居心地よく過ごせる場所だと気づき、通い始めました。
育休後の復職によって一度離れてしまいましたが、子どもが小学生になり、かなーちえサテライトが開設するタイミングで、スタッフに応募しました。
- 今では、同じ悩みを抱えている保護者の方たちの気持ちに寄り添い、語り合うことで一緒に子育て・子育ちを学んでいます。
- 自分自身が母親として育った場所で、今度は一緒にあたたかい場所を作ることができて嬉しいと語っています。
子どもの病気や障害のことが共有できる場所
2年前からスタッフをしている石原理香さん。子どもが症例の少ない病気で医療的なケアが必要なため、かなーちえと同じビルにある東部療育センターに訪れていました。
子育て支援拠点のひろばがあるのは知っていましたが、こどもの病気もあり気持ちがついていきませんでした。そんな中、療育の同じ学級の子が利用しており、その子の親に声をかけてもらい一緒に扉を開けたのが約13年前のこと。すぐにひろばで遊ぶことはできませんでしたが、スタッフの配慮により、ひろばの外でゆっくりと過ごすことができました。
そんなときに塚原施設長から「療育センターに通う親子にもっと利用してもらうためには、どうしたら良いかな」と相談されました。
私は、療育センターに通う親の様子から、医療的なケアが必要な子どもたちが、親子で安心して過ごせる場所がかなーちえにあれば落ち着いて来所できると思い、提案しました。
そして、療育を行う親子の気持ちを語り合う療育親子トークを立ち上げ、不安や悩みを共有できる場となりました。
- 子どもが高校1年生になり、少し体力がついてきたので子育てから離れて、2年前からスタッフとして働き、早期療育の大切さや療育を行う親の心の声に寄り添い、自分の経験を伝えることで少しでも力になれればと思っています。
かなーちえが、これから目指していくこと
塚原施設長に、かなーちえがこれから目指していくことについて聞きました。
- 利用者がスタッフに
「かなーちえを立ち上げたときは、開拓者の思いで試行錯誤しながら拠点づくりを行ってきました」
「開所から15年以上が経ち、山口さんや石原さんのように、施設の利用者からスタッフになる方がいることは、今の親子に近い価値観のなかで新たな拠点づくりに繋がっていきます。また、SNSの情報発信やオンライン企画を通して、場には訪れにくい人たちにも出会える機会が増えました。本当に心強いです」
- 地域ぐるみで子育てを
「横浜市が子育てをする親に行ったニーズ調査では、赤ちゃんの世話を経験したことがない人が全体の3分の2。自分の生まれ育った町から離れて子育てをするアウェイ育児は78%(子育てひろば全国連絡協議会調査)となっています」
「そこで大切なのが、私たちのような拠点の役割だと思っています。かなーちえの利用者が子育て支援の担い手になっていく循環や、地域のなかでも子育て世代を見守り、時には手を差し伸べられるような対話が生まれる場づくりが必要となっていきます」
「そのため、スタッフ全員がコーディネーターの意識を持ち、ファシリテーションのスキルを磨いています。「地域ぐるみで子育てを行う環境」や「豊かな地域」のために、あらゆる情報を橋渡しし、人・コト・モノを繋ぐ地域人を増やすことを目指してチームで進めています」
Topic3 かなーちえサテライト
2021年4月に、かなーちえのサテライト施設が新子安駅近くの入江町1丁目に開設されました。2階建ての一軒家のなかで、東神奈川のかなーちえと同様、地域の子育て支援拠点として運営しています。塚原施設長は「ビル3階にある東神奈川とは異なり街中の目にふれやすい場所にあるため、地域内のボランティアが多かったり、敷居の低さが特徴的で、将来は街の保健室みたいな機能になっていくのではないかなと期待しています」と話します。ネットワーク交流会での学び合いやオンラインイベント、講師の派遣など双方で協力しながら実施しています。
取材を終えて
「かなーちえ」の取材を通じて、親子の居場所だけではなく相談や情報発信、ネットワークの創出など、神奈川区全体の子育て支援の中核を担っていることがわかりました。
核家族化が進み、頼りになる親が近くにいない環境で子どもを育てる家庭が増えています。子育てを始める家庭にとって悩みや不安を何でも受け止めてくれる「かなーちえ」の存在が身近にあると、とても心強いです。利用者にも話を伺いましたが、かなーちえに通うことで同じ子育て中の親と繋がれることも魅力だと話していました。今、子育てに不安や悩みを抱えている方はぜひ、かなーちえを利用してみてください。
そして、かなーちえのスタッフの皆さんは、常にアンテナを高くしながら人と人をつなげ、子育てをしやすい環境づくりを区内各地で展開しています。今後も「子育てするなら神奈川区だよね」と子育て世代に選ばれ続けるまちになることを願っています。