超高齢社会で、特に地方都市における交通弱者の問題がクローズアップされる中、神奈川県松田町では、10月から新たな公共交通サービス「のるーと足柄」をスタートさせる。その狙いについて、本山博幸・松田町長と運営を担う一般社団法人足柄オンデマンドの梶田佳孝理事長に話を聞いた。
―松田町の公共交通の現状と課題は。
町長「人口減少や新型コロナによる影響も相まって、町内を走る路線バスの便数は減少傾向にあります。また、大型バスのため、運行ルートが限られていました。町は高齢化の進行が顕著であり、生活利便性を維持・向上させる交通手段をどう確保するかが長年の課題でした。こうした中、町内を隈なく走り、利用者がいる場所、いる時間を効率的に運行できる『モノ』があれば、住民、運行事業者、そして自治体にとってもメリットがあると考えました」
―なぜAIオンデマンドバスなのか、事業開始の経緯は。
町長「これから始まるAIオンデマンド交通は、8人乗りのワンボックスカーを使用します。これにより、これまで路線バスのサービスが行き届かなった地域や時間帯をカバーすることができます。また、町内の乗降場も多く、自分の家の近くで乗り降りできます。こどもたちが住み続けたいと思うような便利なふるさとを創造し、将来、親世帯との同居や近居を促す安心のまちづくりは、町が目指すところの一つでもあります」
―他市等におけるAIオンデマンドバスの導入事例とその後の変化は。
理事長「超高齢社会と公共交通における運転手不足をどう解決するかというのは全国的な課題で、オンデマンドバスの導入は各地で進んでいます。『乗り合い』という点では路線バスに近く、『利用者が車を呼ぶ』という点ではタクシーに近い。オンデマンドバスは両者の中間のような位置づけで、乗るのも降りるのも便利と言えます。『いつでも乗りたい』というニーズに応えられることが一番の魅力で、利用者の行動も広がっていると聞きます」
―AIオンデマンドバスが解決する課題は。
理事長「人口がそれほど多くなく、利用者も少ないとなると、どうしても路線バスの定時・定路線という仕組みが機能しにくい面があります。松田町は南北に長く、山間部も抱えていますので、行きたい時に行ける交通手段があれば、一番マッチします。それは、駅周辺の松田地区と山間部の寄地区の往来活性化にもつながるでしょう」
―導入で町民の暮らしの変化は。
町長「一番は暮らしが豊かになることではないでしょうか。買い物や通院、通学に塾…、いろいろなシーンで利用いただくことで、いわゆる『お出かけ』がこれまでよりもぐっと身近になります。移動手段がないことであきらめていたことも、これからは、あきらめずに済むようになるかもしれない。これは非常に大きい変化ではないでしょうか。また別の視点では、家族が送迎等に費やしていた時間や負担を軽減することにもなるでしょう」
―他の手段と比較した優位性は。
理事長「これは、簡単に予約ができて、行きたい時にバスが迎えに来るということに尽きます。AIが最も効率のよいルートを設定するので、移動にかかる時間等の短縮等にもつながると思っています」
―松田町での運行効果の見通しは。
町長「新たな交通手段の確保ということにとどまらず、様々な効果をもたらしてくれると思っている。まず、人が動くことは経済を動かすことにつながります。そして特に交通手段が限定的だった寄地区では移住・定住の促進も見込めます。さらには、マイカーからの転換により渋滞解消やCO2の削減、そして身近な足があることで免許返納への抵抗が薄れ、増加の一途をたどる高齢者が絡む交通事故の防止にもつながるのではないでしょうか」
―町民、利用者にそれぞれメッセージを。
町長「定額制利用料金を導入し、気軽に利用できる環境が整備されています。新しいサービスですので、まずは一度乗っていただき、その便利さを体感してもらいたいと思います」 理事長「交通サービスは言うまでもなく、このシステムだけではありません。路線バスやタクシーもあります。個々のニーズに合わせて使ってほしいと思いますし、私たちも連携して、町の暮らしをよくしていきたいと思っています」