2024年11月9日(土)・10日(日)、「第40回全国削ろう会秦野大会」が行われます。鉋(かんな)による薄削りの技を通して技術交流をする「削ろう会」。全国から木造建築、木工関係の職人からアマチュアまでが一堂に集い、普段はなかなか見ることのできない伝統技術を体感できるのがこの大会です。
そんな「全国削ろう会」の記念すべき第40回の舞台となるのが、神奈川県秦野市。県内唯一の盆地で、表丹沢の豊かな自然と名水に恵まれたまちです。
この秦野市で、「全国削ろう会」のもう一方の主役ともいうべき『木』に関わる人々がいます。表丹沢の山々を整備・管理する秦野市森林組合、老舗の林業会社である株式会社諸戸ホールディングス、そして今大会の実行委員長であり大工でもある中西拓さんに話を聞きました。
【目次】
◆森を育て、守る「秦野市森林組合」
◆歴史ある森を次へつなぐ「諸戸ホールディングス」
◆「第40回全国削ろう会秦野大会」実行委員長・大工の中西拓さん
森を育て、守る「秦野市森林組合」
秦野市森林組合(秦野市羽根988 里山ふれあいセンター内)は主に、森林所有者に代わって木の伐採や森林整備、木材の販売などを行っています。
話をしてくれたのは、代表理事専務の大津徹さん、総務課長の岡﨑篤さん、技師(測量士・樹木医補)の長谷川理恵さんの3人。
森林組合では木材の流通を継続するため、森林調査を行い計画を立てて伐採しているそうです。流通に向かない規格外のものは、薪やチップなどに使用しているほか、作業路の補強などにも使用しています。
大津さんは、「木を植え、収穫し、木材を生活に利用するという循環を作ることが大切。そのサイクルを支えているのが林業という仕事です」と話します。人の手で管理することで、木が地面にしっかりと根を張り、土砂災害なども防ぐことができます。
また、森林の荒廃を防ぐためには間伐も必要だといいます。
間伐をすることで地面に光が入り、コケや草など、下層植生が復活し、森の再生へつなぐことができるそうです。
こうして表丹沢で守られ育った木は、今回の「全国削ろう会秦野大会」でハツリ、やり鉋などの実演用の木材としても使われることになっています。
自分たちの手で苗木から育てる
これまで植林用の苗木は市内の業者から購入していたという森林組合。しかし、時代の流れに伴う苗木生産者の減少をきっかけに、2022年から苗木づくりも始めました。
この苗木づくりを担っているのが長谷川さんです。神奈川県から提供された少花粉ヒノキを種から育てているほか、最近では花粉症対策としても注目されている「無花粉ヒノキ」や「無花粉スギ」の挿し木栽培などにも挑戦し、植林に生かしています。
植林した苗木は、鹿などに芽を食べられないように柵で囲うなどの対策もしっかり行っているそうです。
長谷川さんは「人々の生活に欠かせないおいしい空気、おいしい水を作り出しているのが森林です。その森林を支える林業は、未来のためにも必要な仕事だと感じています」と話します。
長い時間をかけて成長していく木を見るのも楽しみのひとつ。およそ10年前に植えた木が、ようやく長谷川さんの背丈を越えたのだとか。
「荒れていた森林を整備したことで、数年後に下層植生が復活しているのを見ると、やりがいを感じます」と話してくれました。
歴史ある森を次へつなぐ「諸戸ホールディングス」
ヒルクライムの聖地であるヤビツ峠を越え、丹沢の青山荘から北側、約900ヘクタールに及ぶ社有林を持つのが老舗の林業会社「株式会社諸戸ホールディングス」です。
この広大なヒノキとスギの森を管理しているのが、同社丹沢事務所の笹原美香さん。主に社有林の見回りと整備作業などを行っています。
「うちは樹齢120年以上の木がほとんどなので、間伐を行い光を入れて植生を豊かにし、木々を生かすことが主な仕事です」
諸戸ホールディングスの木は、1ヘクタールあたり5,000~10,000本、1.5~1m間隔で植えられているため、まっすぐで目の詰まった木となります。こうした特性を知り、年数が経ち目の詰まった木材を求めて、丹沢の山に足を運ぶ人もいるそうです。
今回の「全国削ろう会秦野大会」では、競技決勝の削り材として同社のヒノキ材が使われることになっています。
「人も木も変わらない」
林業に興味があり、体力にも自信があったため、大学卒業後にこの道へ進んだという笹原さん。チェーンソーを扱い、木の伐採をすることもあります。現在は作業に使う機械も進化していて、「男女の区別なく扱うことができます」と話します。
「この仕事をしていて思うのは、人も木も変わらないんだな、ということです。木を切っていると同じように見えても木が一本一本違い、その違いに多様性を感じています」
諸戸ホールディングスの森にある木々は100年以上も前から植えられてきたもの。長い年月、人々が手をかけ、育ててきたからこそ、今の丹沢の森があるのです。
「1923年、関東大震災が起こりました。大震災とその後の雨の影響で、倒れてしまった木も多かったようです。いまある木々は、そんな歴史的な災害を生き延びたもの。樹齢120年のヒノキは、そんな歴史も伝えています」
100年以上も前から受け継がれてきた木々を守り、育て、次の世代へと送り出す。50年、100年後につなげていく仕事が「林業」の魅力なのかもしれません。
自然に触れて、知って欲しい
森林の管理のもう一つの手法が、キャンプ場の経営です。同社の社有林の一角にある「BOSCO Auto Camp Base(ボスコオートキャンプベース)」(運営会社:諸戸コーポレーション株式会社)は、2025年で30周年を迎えるキャンプ場。森林の中に常に人の目と手が入る場所を作ることで、山の荒廃を防ぐとともに、一般の人々に自然に触れる機会を提供しているそうです。
「山がなければ、人々の生活も次に続いていきません。多くの人に自然に触れてもらうことで、自然の大切さを知ってもらえたら」
生活に不可欠な『住』を支える大工の仕事
長い時間多くの人の手によって育まれ、伐採され、加工された木材を人々の生活に生かすのが「大工」という仕事。
中西拓さんは中西大工店の棟梁で、秦野削ろう会会長、「第40回全国削ろう会秦野大会招致・実行委員会」の実行委員長でもあります。
中西さんが大工の道に進んだのは18歳。「幼稚園の卒業アルバムに『大工になる』と書いてあって。どうしてそう思ったのかは全く覚えていないんだけど、その夢を信じて進みました」と話します。
高校卒業後、親方のもとで技術を磨き、一般住宅のほか、宮大工として秦野市にある出雲大社相模分祠をはじめ神社仏閣も手掛けています。
「親方が何でもやらせてくれる人だったのでありがたかったです。いっぱい失敗しながら、技術を覚えました」とこれまでを振り返って笑う中西さん。2023年に独立し「中西大工店」を立ち上げ、現在は1人親方として活躍しています。
「やっぱり、完成した後にお客さんから『ありがとう』という言葉をいただけた時にやりがいを感じます。毎日の生活に欠かせない『衣食住』の『住』を支えるのが自分たちの分野。これまで培ってきた技術で、みなさんが快適に健康で暮らせるよう手伝えるのが、大工の魅力だと思います」
1/1000mmの技を競う
神社の柱は一般住宅のような既製品がないため、その修復にあたっては時には道具を一からつくり、寸法を合わせていかなければなりません。そんな時に重要な役割を担うのが、古くからの大工道具の扱いと鉋での削りの技術です。
「全国削ろう会秦野大会」には、そんな1/1000mmの技を競う鉋薄削りの技術を持った職人が、全国から2日間で約450人集結します。
「年齢関係なく、すごい人たちが秦野に集まってきます。こんな機会はそうそうありません。職人の技術はもちろん、ヒノキの香りでいっぱいになる会場の匂いや雰囲気、鉋で削った木の薄さ、競技の熱量などを体全体で感じてもらえれば」と話します。
大会では競技のほか、「かんな削り体験」や「かんなくずプール」、「木のおもちゃ」展示など親子で楽しめる催しもたくさん用意されています。また、11月10日には「秦野市里山まつり」も同時開催されます。
中西さんは「お子さんを連れてぜひ多くの人にご来場いただき、大工の技術や秦野産材の良さに触れてもらえたら嬉しい。そして少しでも林業や大工の仕事に興味を持ってもらい、秦野の豊かな自然、素晴らしい技術を次世代につなげていきたいです」と話していました。
【第40回全国削ろう会秦野大会】
●日時:2024年11月9日(土)13:00~16:00/10日(日)9:00~16:00
●会場:メタックス体育館はだの(秦野市総合体育館/秦野市平沢101-1)・カルチャーパークけやき広場(メタックス体育館はだの前)
●内容:
◎競技(鉋薄削り競技・五寸鉋競技)
◎大鉋・やり鉋実演
◎小川三夫棟梁講演会(9日14:00~15:00)
◎大工道具店コーナー
◎木工教室、森林に関する展示等のアトラクション(かんな削り体験、かんなくずプール、木のおもちゃなど)
◎ハツリ実演
◎秦野のグルメを楽しむ模擬店コーナー
★11月10日(日)秦野市里山まつり 同時開催 9:00~15:00
※一部写真は提供によるものです。