三方を海に囲まれた神奈川県三浦市。やはり一番の魅力といえば、ビーチだろう。京急「三浦海岸駅」から徒歩圏内に位置し、いつも訪れる人々に癒しを与えてくれる。海水浴シーズンに賑わう観光客のみならず、地元住民にとっても特別な場所。都会にあるような遊び場ではないかもしれないが、1年365日を通して親子連れなどが自然を体感しながら、それぞれアクティビティに興じている。
人人人。海水浴場としての三浦海岸の歴史は古い。明治時代から都内の学生らが汽車に揺られて来ていたことが文献に残っている。観光客は駅の開通によって急激に増加。1971(昭和46)年には、過去最高となる399万人を記録した。
こちらが現在。春のオフシーズンということもあり、人影はまばら。だからこそ、まるでビーチを独り占めしたかのような気分になる。陽光が燦々と降り注ぎ、思わずあくびをもよおしてしまいたくなるような風景。潮風をいっぱいに吸い込むと、心がすぅーと解き放たれる。
三浦海岸から県道215号沿いにほんの少しだけ進むと、菊名海岸がある。そこには無料の駐車場がいくつか設けられている。
環境守る市民たち~多世代でSDGs推進~
しかしいつ見ても美しい砂浜だ。手に取るたびにサラサラしているし、ごみもあまり見当たらない。
公益財団法人かながわ海岸美化財団(本部・茅ヶ崎市)によると、海ごみ問題への関心の高まりやリモート授業などで空き時間が増えた大学生らZ世代などが、ビーチクリーンに参加するケースが近年目立つという。財団ではボランティアに対し、ごみ袋やトングといった用具を提供するだけでなく、回収までワンストップで無償支援。
- 拾ったごみは指定場所に置いておけば、スタッフが取りに来てくれる仕組みなので、子どもからシニアまで幅広い世代が気軽に豊かな自然を守っている。また、収集した漂着物を観察したり、アート作品を作ったりすることで、SDGsに興味を持つ子どもも増えている。
三浦市教育委員会は海洋教育に力を入れており、市内中学校の授業には地引網体験がある。児童生徒に海の豊かさや食を支える漁業の大変さを知ってもらおうという企画。子どもたちは左右2グループに分かれ、あらかじめ漁師が沖合に広げておいた漁網を力いっぱい引っ張り上げる。体長60cmほどのマダイのほか、フグやスズキなど魚の姿が見えると、皆が歓声を上げ、大漁を喜ぶ。
楽しみ方は十人十色~自分の世界に浸って~
辺り一帯にはサーフショップが軒を連ね、ウインドサーフィンやシーカヤック、SUP(スタンドアップパドルボード)といったマリンスポーツのほか、釣りを楽しむ人が多い。
老夫婦が砂浜に降りてきた。子どもの手には玩具のショベルカー。ひ孫さんだそうだ。
こっちでは相撲。
あっちではビーチフラッグなど、熱い戦いが繰り広げられていた。そのほか、キャッチボールやビーチバレー、凧揚げ、一人で波とおいかけっこ、流木集めといった遊びをする姿が見られた。
犬の散歩をする人もいた。マイクロブタも、えっちらおっちら。ミニブタを掛け合わせて小型化した40kg以下の種類らしく、「サクラ」という女の子らしい。三浦海岸に咲く河津桜にぴったりの名だ。しばらくすると、海を眺めてフリーズ。少し哲学的な空気を纏っていた。
IT会社で働く社員は、焚き火を囲んで語り合っていた。ミーティングだという。自然豊かな立地を活かし、心身ともにリフレッシュすることで、明日への活力を得る時間を共有。
- 特別な1日を終えた30代男性は「社内とは違った環境で過ごすことで、同僚の違った一面も知れた。また来たい」と笑みを見せた。そのすぐそばでは、カップルがBBQをしていたり、テントを張ってファーストフードを食べていたり、ただイスに腰かけただけで海を見ながらたそがれていたり。それぞれの方法でビーチを満喫していた。
ここでしか見られない絶景~花火に、大根干し?~
夏には三浦海岸で花火大会も開かれる。水中花火やスターマインのほか、スイカや大根をモチーフにした三浦らしい花火など、約3千発が夜空を彩り、会場に訪れる約3万人の顔を明るく照らす。
冬には、白と緑のコントラストが美しい”大根カーテン”も出現する。たくあん漬け用の大根で特産品。太陽の日差しと冷たい潮風にさらし、自然乾燥で水分を抜く。砂浜ならではの風通しの良さや真冬でも凍ることがない地域のため、好天に恵まれると早ければ数日から1週間ほどで干しあがる。素材が持つうま味が凝縮された歯ごたえの良い商品だ。
子育てするには最高~三浦海岸海水浴場組合長~
海の家の数は1967(昭和42)年に57軒で、過去最高を記録。2023年は2軒だった。そのうちの一つ「丸長荘」のオーナーで、三浦海岸海水浴場組合の組合長を務めるのが、吉田勝さん(65)。近くで民宿を営む3代目だ。海の家の建設は業者に依頼せず、吉田さん一家が協力しながら作ってきた。
三浦海岸が通学路だったという吉田さん。「同業者は大分減ってしまったけれど、このまちには魅力がたくさん詰まっている。安全だし、子育てするには良い環境が揃っている。住めば分かるはず」と腰に手を当てながら笑った。