あらゆる世代の呼吸器疾患に対応
「世代ごとに違った呼吸器疾患のリスクがあります」
こう話すのは、東戸塚記念病院・呼吸器内科の佐藤孝一医師。ひとくちに呼吸器疾患といっても、病変が起きる部位は肺や気管、胸膜などさまざま。疾患も肺炎や肺がん、気管支喘息、睡眠時無呼吸症候群、間質性肺炎など多岐にわたります。どれも命にかかわる危険性を持つ疾患であり、佐藤医師に予防策や治療法について詳しくお聴きしました。
呼吸器内科って?
そもそも「呼吸器内科って?」という方も多いはず。呼吸とは、空気を吸う・吐くことですが、その空気の通り道の「上気道」(口・鼻から喉の部分)と「下気道」(気管から肺までの部分)に分かれ、主に「下気道」にできる疾患を専門に治療するのが同科です。
気管支炎
では気管支炎から見て行きましょう。風邪(上気道炎)やインフルエンザ、マイコプラズマなどの感染症をきっかけに気管支炎(下気道の炎症)が起こり、悪化すると肺炎になることがあります。特に冬場は注意が必要です。「大切なのは悪化させないこと。ただのせきや痰だと見過ごさず、少しでも気になることがあればすぐに呼吸器内科を受診してください」と佐藤医師は呼びかけます。
気管支喘息
気管支炎に罹患した際、「気管支喘息発作」が起きる危険性があります。気管支喘息の患者さんは、気道に慢性的な炎症があり、感染や運動、寒冷刺激などをきっかけに咳が起こりやすくなります。
「熱は下がったのに咳が続く…」「夜から朝にかけて咳が特にひどくなる…」という方は特に注意。放っておくと悪化して呼吸機能が低下する可能性があるといいます。
治療はステロイドなどの吸入薬を主として、なるべく発作が起きないように対策することが大切です。
「もしご自身で『当てはまるかも』という方がいらっしゃいましたら、一度当院で呼吸機能検査や呼気一酸化窒素濃度検査を受けることをおすすめします」と佐藤医師は語ります。
誤嚥性肺炎
次は肺炎を見て行きましょう。高齢者が罹りやすい「誤嚥性肺炎」は、嚥下(食べ物や飲み物を飲み込むこと)する際、飲食物や唾液などが誤って気管に入っても、正常ならむせることで排出できますが、加齢等で排出する力が弱まることで肺炎になります。細菌感染で発症する肺炎で、特に身体機能が大きく低下した方の死亡リスクを高めます。「当院では内科と連携しながら、言語聴覚士がリハビリをしたり、嚥下体操を行ったりし、未然に防ぐことに力を入れています」と佐藤医師。発症を防ぐためには、普段から口の中を清潔に保つほか、食べ物にとろみをつけたりゆっくり飲み込むなどの対策が必要です。
マイコプラズマ肺炎
小児や若者に比較的多いのが「マイコプラズマ肺炎」。厚労省によると、患者として報告されたうち約80%が14歳以下と若年者が多いそう。感染した人の咳による飛沫を吸い込んだり、感染者と接触したりすることで罹患することから、学校のクラスメイト同士で感染が広がることも。秋冬に増加する特徴があります。熱が下がったあとも咳が続いていたら疑った方がいいでしょう。
肺がん
日本人男性の死因の1位は「肺がん」ですが、進行期の肺がんに対して、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬を合わせて点滴として投与する治療が進歩し、生存率が上昇しつつあります。発症の原因のひとつである遺伝子変異についての研究が進み、飲み薬で治療できる場合もあるといいます。「当院に来られる肺がんの患者様の多くは喫煙者の方です。予防としてはやはり禁煙することが第一。副流煙にも注意が必要で、医師としてはご自身、ご家族のためにも禁煙をお勧めしたい」と佐藤医師は力をこめます。
また、過去にアスベストを吸ってしまった人も、「悪性胸膜中皮種」と呼ばれるがんを発症する可能性があるため注意が必要です。
佐藤医師は「一般的に肺がんは早期ですと症状が出ないため、なかなか自分では気が付きません。定期的な健康診断で、レントゲンを撮ることが重要です」
睡眠時無呼吸症候群
「睡眠時無呼吸症候群」も心配されている方が多いでしょう。肥満や飲酒などにより睡眠時に無呼吸となるこの疾患。心筋梗塞や脳梗塞など深刻な病気を誘引する恐れがあります。治療法は眠る際、CPAPという圧力をかけて空気を送り込む機械や、マウスピースを装着することで無呼吸が軽減できるそう。佐藤医師は「CPAPは慣れるまでは多少つらいかもしれませんが、大きな効果を期待できます」と話します。
「和を以て貴しと為す」
佐藤医師は大阪市出身。横浜国立大学経営学部を卒業後、医師になりたいとの思いから、和歌山県立医科大学に進学。「医師と患者が『病気の治癒』という同じ方向を見ながら協力していく」関係性を築けることが喜びだと語ります。
座右の銘は「和を以て貴しと為す」。
これまでも常に患者との対話を大切にし、一人ひとりにあった治療を提案してきたといい、今後もそうした姿勢を貫きながらも「東戸塚記念病院の呼吸器内科の診療内容を充実させていきたい」と明るい笑顔で語ります。