子どもから大人まで一緒に楽しむ演劇作品『かがみ まど とびら』が7月22日(木・祝)、茅ヶ崎市民文化会館で開催されます。今回はその魅力をレポートします!お話を伺ったのは、作・演出の藤田貴大(ふじた・たかひろ)さんです。
<コンテンツ>
●あらすじ
●子どもから楽しめる演劇。そこに込めた想いとは…。
●「子ども」と向き合い続けてきた
●コロナ禍と通じるモチーフ
●プロフィール
あらすじ
おかあさんが子どものころからおうちにいるぬいぐるみが捨てられてしまうことを知った“かがみ”。深夜2時、ぬいぐるみを助けるためにリビングへ行くと、突然、かがみはリビングの大きな鏡に吸い込まれてしまう! 鏡の世界で同級生の“まど”や“とびら”とともに体験するふしぎな出来事。やがて海へ辿り着いたかがみを待っていたのは……。
子どもから楽しめる演劇。そこに込めた想いとは…。
今回の舞台は、4歳くらいの小さな子どもから大人まで、幅広い年代が楽しめる構成となっています。シャボン玉やスモークを使ったり、会場を巻き込む演出を行ったり…。
- 子どもでも楽しめる舞台に込めた想いについて、藤田さんは「『おもしろかった』だけで終わってほしくない。〝未来の作り手〟に向けてつくっている感覚があります」と話します。
かつてないほど多くの「フィクション」に日々囲まれている現在の子どもたち。一方で、その裏側は見えづらくなっています。例えば、映画の中で降る雨は、だれかが水を使って演出しています。しかし映画を見るだけでは、本物の雨かどうか、わかりません。一方で演劇は、「仕掛け」であることがわかりやすい。
- これについて藤田さんは「子どもたちに対して、あえて隠さずにやりたい。画面とは違う手触りを感じることができるから」と、こだわりを紹介してくれました。
「子ども」と向き合い続けてきた
20代の頃は、18歳までの自分の記憶をモチーフに作品を描いていた藤田さん。変化が起きたのは26歳の頃。3連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田国士戯曲賞を受賞してから、「自分から離れなきゃ」と考え出したそうです。
その後、子どもたちが出演する舞台を作るように。福島の中高生らが出演するミュージカル『タイムライン』では、100人以上の子どもたちと関わってきました。そうした経緯を経て、現在の「子どもの観客」に届けていく志向に至っているといいます。
風通しの良い舞台に
約1時間の舞台において、子どもに集中してもらうことは難しく「これまで以上に、観客との駆け引きをチーム全体で考えなければならない」と語ります。推奨は「4歳以上」となっていますが、もっと小さな子どもも「ウェルカム」な舞台にしたいそうです。
- 「途中で赤ちゃんが泣いたとしても、うしろゆびを刺されない環境にしたい。一回退出しても戻ってこられるような、風通し良い環境をめざしています」と話します。
これは、チーム全体に共通している想いでもあるそうです。「順当にいけば、僕らが先に死んで、子どもたちが僕たちの知らない未来を生きていくことになります。僕たちのパフォーマンスを目の当たりにして、何十年か先になにかを創っていく。
- 音楽の原田郁子さん、衣装のsuzuki takayukiさんをはじめ、チーム全体に共通するのが、祈りのような気持ちです」
コロナ禍と通じるモチーフ
本作は、「家から一歩も外に出ない作品」です。主人公の〝かがみ〟は鏡を通して、同級生の〝まど〟や〝とびら〟の家にワープしますが、外には出ません。
新型コロナが流行する以前に着想した作品ですが、はからずも現在の社会状況 ――家にいても授業が受けられたり、SNSにアクセスしたり、アニメや映画を見られたりーー と通じるモチーフとなっています。そして藤田さんは、こうも付け加えます。
- 「演劇である以上、家から外に出ないと、この作品を見ることができません。その矛盾が、美しい作品だなと思っています」
「灯を消したくない」
新型コロナが、演劇という営みそのものを難しくしている状況が続きます。
「ぼくたちは劇場で待っているしかありませんが、そこで人をもてなしたいし、『外に出るという選択をしてよかった』と思ってもらうことを、積み重ねていくしかない」と藤田さん。
- 「いろんなハードルを越えてきてくれるからには、それ相応の準備をしていきます。挑戦になりますが、灯を消したくない」と思いを語りました。
プロフィール
藤田貴大(ふじた・たかひろ)/作・演出
1985年生まれ。マームとジプシー主宰、演劇作家。2007年にマームとジプシーを旗揚げ。象徴するシーンのリフレインを別の角度から見せる映画的手法で注目を集める。2011年に3連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2015年、今日マチ子原作の『cocoon』(再演)で第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。演劇作品以外でもエッセイや小説、共作漫画の発表など、活動は多岐に渡る。2007年7月、初の小説集『季節を告げる毳毳は夜が知った毛毛毛毛』(河出書房新社)を上梓。
原田郁子(はらだ・いくこ)/音楽
福岡生まれ。1995 年にスリーピースバンド「クラムボン」を結成。歌と鍵盤を担当。バンド活動と並行して、さまざまなミュージシャンと共演、共作、ソロ活動も精力的に行っている。2004年「ピアノ」、2008年「気配と余韻」「ケモノと魔法」「銀河」の4枚のソロアルバムを発表。2010年、吉祥寺のイベントスペース&カフェ『キチム』の立ち上げに携わる。マームとジプシー/藤田貴大の公演では、2013年&2015年の『cocoon』、2018年&2019年の『めにみえない みみにしたい』、2020年の『かがみ まど とびら』の音楽を担当。
suzuki takayuki/衣装
2002年より活動を続けるファッションブランド。デザイナーのスズキタカユキが、アートギャラリーでの作品展示をきっかけにダンス、音楽関係の衣装を手掛けるようになり、ファッションブランド「suzuki takayuki」を立ち上げる。その後、国内外でコレクションを発表し続けている。また、ブランド事業に囚われず、様々なアーティストとのコラボレーションや、ミュージシャンへの衣装提供、演劇や、ダンス、映画関係の衣装製作、舞台美術等も精力的に行い、布や衣服に関わる多くの活動を行なっている。