消防署の並びで、50年以上に渡って中華料理店として地域の人たちの胃袋を満たしていた場所が、2022年4月、とても素敵な古本屋、話せるシェア本屋“とまり木”に生まれ変わりました。
一風変わった、話せるシェア本屋
古本屋と言っても、本屋さんが本を仕入れて、陳列・販売するのではなく、個人の方が“とまり木”の本棚の一区画を借りて、その方が持っている本を本棚に陳列し、販売を“とまり木”にお願いするシェア本屋という、一風変わった形態の古本屋です。また、店内には小上がりの和室もあり、腰を落ち着けて本を読んだり、お茶を飲みながらこの空間を楽しむこともできます。
このような形態の本屋になった理由を尋ねると、「本を通じて、安らげる居場所をつくりたかった!本を目的に訪れるというより、本を介した自然な対話を楽しめる空間にしたい。」と店主の大西裕太さんは教えてくれました。
「会社員時代、経理の仕事を一日中こなして帰路についたとき『今日、一日誰とも話さなかった。』と思うことがたびたびあった。コロナ禍で、リアルで人と話すチャンスが減ってしまっている。とは言うものの、単に居場所を作っても人は集まらず、人のつながりができる訳ではない」との想いがあり、本をきっかけに人と人とが自然とつながれるようにと考えた結果、シェア本屋という形に至ったとのことです。
本棚は一区画3000円/月で借りることができます。「単に、読まなくなった本をシェアするのではなく、自分の人生にとって影響があったなど、想いのある本を置いてもらうようにしている」そうです。 看護の専門書ばかりが置いてある本棚、子ども用の絵本と大人用の本が一緒に置いてある本棚、シリーズ物の小説がいっぱいの本棚など、それぞれ個性のある本棚ばかりで、どんな人がこの本棚のオーナーなのかと想像が膨らみます。ネットで本を探すと、自分が元々興味を持っているジャンルの本が候補に挙がってくる一方で、興味のないジャンルの本はなかなか発見できませんが、“とまり木”ですと今までは興味のなかったジャンルで気になる本が発見できそうです。
チガラボでスモールスタートし、矢畑のこの物件にたどり着く
今年4月の本格オープンからさかのぼること10か月、“とまり木”は2021年6月に、茅ヶ崎駅北口にあるコワーキングスペース”チガラボ“の一角を借りてスタートしました。その後、起業に向け、湘南ビジネスコンテストにエントリーし、本格オープンに向けて不動産物件めぐりが始まりました。茅ヶ崎市内の様々な物件をめぐりながらも、茅ヶ崎市内でもどちらかというと北側の香川地区で育った大西さん、「できれば海側ではなく、東海道線より北側のエリアで見つかれば」と想いながら、物件探しをしていました。
多くの物件は、不動産屋さんから家賃や設備と言った借りる上での条件面の話し合いが中心だったのに対し、矢畑の中華料理店だったこの物件では、条件面ではなくどんなコンセプトの場所にしたいか、しかもその話し合いは不動産屋さんではなく大家さんと行われました。「大家さんに“とまり木”のコンセプトを共感いただけたのがこの場所にした決め手だった」と大西さんは言います。
茅ヶ崎駅周辺にはコワーキングスペースなど居場所となる空間が増えてきていますが、駅から少し離れ、住宅地に近いこの場所だからこそ果たせる役割もあるのではないかと思われます。偶然にも“とまり木”のある矢畑エリアで体験農園とイベントスタジオを営んでらっしゃる“RIVENDEL(リベンデル)”もあり、今後、“とまり木”と“RIVENDEL”のコラボがおこったりすると、更に面白い地域になりそうと勝手に想像してしまいます。
築50年以上の飲食店舗跡をDIYでシェア本屋に
2022年1月から3月にかけてDIYで店舗の改修が行われました。DIYは”チガラボ”で大西さんとつながった人や、その知り合い等、様々な人が参加して行われました。DIYのポイントを大西さんに聞いたところ、「参加してくれた人には“とまり木”のコンセプトは伝えたが、具体的にどこをどのように改修するかは、参加してくれた人のアイディアをもとにみんなで作業を行ったらこのような居心地の良い空間が出来あがってきた」そうです。
シェア本屋だけど“とまり木”の利用は人それぞれ
大西さんにお話を聞いている間にも、“とまり木”には様々な方が訪れていました。幼稚園帰りにお母さんと寄った女の子は、本棚に置いてあるおもちゃで遊び、お母さんは大西さんの奥さんと子育てのお話をされていました。 次に訪れたのは、本棚を借り、自分の本を陳列している高校1年生の近藤鉄平さん。当初、本棚にはハリーポッターシリーズを置いていましたが、どんどん売れていき、当初の本はほとんど入れ替わるほどの人気ぶり。DIYの際には、本棚の色塗りを一緒にされたそうです。“とまり木”の感想を聞いてみると、「ふらっと立ち寄りやすく、居心地がいい。自分の本を買っている人にはまだ会ってはいないけど、自分が読んでいた本を他の人が読んでいるのが感慨深い。」とのことです。
多くの古本屋さんでは、誰の本を誰が買っていったか追うことが困難ですが、“とまり木”では誰の本が誰に渡ったかが把握できます。近藤さんはまだ本を買った人に会ったことはありませんが、今後、自分の本を買った人に会うと、そこから新しい人と人とのつながりが生まれるのだろうと想像すると、何だかワクワクします。 その他にも、小学5年生の女の子がちょくちょく本を読みに来たり、イオンへの買い物の行き帰りに立ち寄る人がいたりと、オープンから1か月もたっていませんが、様々な人がそれぞれの方法で利用されています。
デジタル技術が発達し、また、コロナ禍でワークスタイルも変化してきたからこそ、シェア本屋という仕組みをとおして、安らげる場を作ろうとする“とまり木”のようなヒューマンスケールの取り組みが、より必要になっているのかもしれません。
Information
話せるシェア本屋とまり木
営業時間:9時から17時、定休日:火曜日・土曜日