三浦市役所から送られてきた1通のメール。「潮風スポーツ公園で野球教室を開催する」という内容だった。講師の欄には「荒木大輔」と書かれていた。
1年生から早稲田実業のエースとして春夏5季連続甲子園に出場。その甘いルックスからアイドル的な人気を誇り、空前の「大ちゃんフィーバー」を巻き起こした。83年ドラフト1位指名でヤクルトスワローズに入団。伸びのあるストレートと落差のあるカーブでバッターを打ち取る巧みな配球で活躍した。あ、あの荒木が来る…。
取材当日、グラウンドに足を踏み入れると、周囲とは一線を画したオーラを放つ荒木さんを発見。現役時代の姿がフラッシュバックした。そこでふと思った。「もしもカーブが投げられたなら、どんなにかっこいいだろう。人生も変わっていたかもしれない。教えてくれたりしないかな。ちょっと図々しいかな…」。記者の思考は堂々巡りを繰り返すばかり。
「す、すみません。カーブの投げ方を教えてくれませんか?」。自然と声に出していた。頬が火照っていくのが分かった。
「いいですよ」。二つ返事で引き受けてくれた荒木さん。「あの私、もういい年なんですけど、まだ投げられますかね?」という記者の問いに、「コツさえ掴めばね」と爽やかな笑みを浮かべながら、おもむろにポケットから取り出したのは、マジックペンで縫い目らしき線を書いた軟球。「まずはね…」。いよいよマンツーマンレッスンが始まる。
握り
「人差し指と中指くっつけて、縫い目に沿って内側に入れる。その対角を親指でしっかりとグリップ。ただ、指とボールを密着しすぎると回転が掛かりにくくなるので、少しだけ隙間を空ける」
フォーム
「手首は折らない、捻らない。 腕のしなりと手首を縦に使ってボールに回転を与える。 ボールの軌道をイメージするのが大事」。それからそれから…。
「荒木さ~ん」「荒木さ~ん」「荒木さ~ん」。レクチャーしてもらっている間、じっとこちらを見つめていた少年たち。どうやらサインが欲しかったらしく、話の長い記者に業を煮やして集まってきたのだ。「はいどうぞ。うまくなるんだよ」。少し汗の染みついたベースポールキャップに達筆な字を走らせて、そっと優しく返していた。
「継続は力なり」
キッズだけでなく、厚かましい記者にも惜しげもなくスキルを披露してくれた荒木さん。グラウンドを見つめながら、最後はこう結んだ。
「野球じゃなくてもいいんです。ほかのスポーツでも勉強でも仕事でも。夢中になれるものを見つけられればそれでいいんです。大切なのは、ずっと続けていくこと。どんな道でも長く携わっていけば、見えてくるものがあるし、自分の糧にもなる」
おまけ
帰宅後、何だか興奮冷めやらず、久しぶりに息子を誘ってキャッチボール。「次、カーブね」。手首を捻りながら自信満々に言い放ち、早速、荒木さん直伝のカーブを投げてみた。「ちょっと曲がってるかも」と息子。調子に乗ってバンバン投球していると、10球ほどで右肘がやられた。
※この原稿は少々痛みに耐えながら書いています。普段、スポーツしないからこうなるんです。皆さんには、適度に運動して、ある程度の体力がついてから、カーブを投げることをオススメします。