国内でも指折りの本格オペラハウスとして知られる横須賀芸術劇場。オペラやクラシック、バレエ、ポップス、伝統芸能と幅広いジャンルの鑑賞機会を提供していますが、その舞台裏は一体どうなっているのでしょうか?
そんな好奇心を満たしてくれるバックステージツアーを同劇場では、年に数回だけ開いています。実は募集を行えばすぐに定員に達してしまうという密かな人気企画。普段は立ち入ることが許されていない場所や演出のための仕掛けをスタッフの解説付きでめぐることができるのです。これに潜入取材させてもらいました。
「舞台裏」の言葉に特別な響き
集合場所は荷捌き場。トラックやトレーラーが乗り付けて舞台セットや楽器を搬入する場所で早くも裏口感満載。ツアーはここからスタートです。
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大型トレーラーやトラックが乗り付けて積み荷を降ろす場所
「奈落」
最初に案内されたのは「奈落」と呼ばれる舞台の真下に位置するスペース。高さ11メートルあり、深く暗い場所であることからその名がつけられているそう。「奈落(地獄)に落ちる」という表現の語源でもあります。
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奈落を見上げる見学者ら。ステージまでの高さは11m。オーケストラ器材などを運んだり、演出装置としても使われる
奈落からエレベーターに乗り込んで誰もいないステージへ。
ステージ
「馬蹄型」と呼ばれる、馬の蹄の形をした劇場の全容がよくわかります。客席は5階席まであり、約1800人収容できるそうです。眩いスポットライトを浴びて中央に立つと、演者だけが見ることのできる風景が広がります。舞台に立つことの快感と恐怖をほんの少しだけ感じることができました。
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眼がくらむほどの光量。スター気分を味わえる
音楽に合わせて「バトン」が躍り出す
今度は3階の客席側に移動して、天井から吊り下がる「バトン」と呼ばれる装置の説明。舞台機構のひとつで、幕や照明などステージ演出で必要な道具を吊って昇降させます。動きはコンピューターで制御されており、同劇場ではこれをショーアップしたデモンストレーションを用意。七色の光に照らされたバトンが音楽に合わせて踊り出す様は圧巻。見学者を楽しませてくれます。
照明階
続いては、8階にある照明階。客席上部の天井部分から指揮者を照らすコンダクターポジション、シーリングルーム、ピンルームといった照明器具を見学。スポットを手動で操作して舞台上の演者を追いかけながらピンポイントで照らす技師の技術を目の当たりにしました。
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ステージ上の演者を照らすピンスポット
楽屋
下りエレベーターで一気に1階の楽屋へ。演者とスタッフが準備や待機をする場所で大小13部屋に衣装部屋が1室。思ったよりもシンプルな印象でした。
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大部屋にシャワーやトイレを備えた部屋も。写真は個室タイプでつくりはシンプル
オーケストラピット
最後の見学場所は、オーケストラピット。ミュージカルやオペラの舞台で演奏を必要とする場合、指揮者や演奏者の姿が見えないように、舞台から一段下げた(約2m)場所に設けられている演奏スペースがそれ。観客が演技や歌に集中してもらうための仕掛けです。スペース全体が昇降できるようになっており、普段は客席として使用されています。
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舞台すぐ前の客席から一段下げた場所にあるオーケストラピット。普段は客席となっている
これで一連の見学は終了、所要時間は約90分。劇場を立体的に捉えることができ、舞台芸術を支えているスタッフや技術者たちの存在も認識することに。ステージを違った視点で見ることができそうです。
同劇場のバックステージツアーは、公演スケジュールの合間を縫って年に2回程度実施されています。夏休みには子ども版のツアーも。詳しい情報はホームページ(https://www.yokosuka-arts.or.jp/)に掲載されています。