茅ヶ崎市中海岸在住 古川 伸一(ふるかわ・しんいち)さん
東京都生まれ。10歳頃まで横浜で過ごした後に茅ヶ崎へ。堤、萩園と市内で転居し、2011年から現在の中海岸で暮らす。システムエンジニアとしてお仕事をしながら毎日サザンビーチに足を運び、友人や知人からは“日本一 ビーチクリーンをするサラリーマン”と言われている。奥様との2人暮らし。
朝5時から毎日、サザンビーチでビーチクリーン
まだ人もまばらな朝5時のサザンビーチ。古川伸一さんの1日は、日の出とともに始まります。
「台風や雨風が強い日以外は毎日出かけています。朝5~6時くらいから拾い始めて、大きいごみなら1時間くらい、マイクロプラスチックを拾い始めたらだいたい2~3時間くらい拾うかな。その日に拾っていくごみの種類によってもだいぶ時間は変わります。サザンビーチは観光スポットでもあるので、ゴールデンウィークや夏のハイシーズンはとんでもなくごみが増えます。今年のゴールデンウィークは旅行で不在にしていたのですが、帰ってきてすぐのビーチクリーンは片付け切るのに5時間くらいかかりましたね…。」
早朝は1人でビーチクリーンするという古川さん。主な活動エリアを聞くと「拾い始めた頃は“蜻蛉組(とんぼぐみ)”という団体と一緒にヘッドランドでやっていたこともありましたが、今はサザンビーチですね。毎週火曜の朝はサザンビーチに加えて“HONKI University”という団体が汐見台でやっているビーチクリーンに合流しています。また、週末には鎌倉、江の島、辻堂、相模川河口など湘南地域で開催されるビーチクリーンやタウンクリーンイベントをはしごしています。」
一人ひとりの意識で海の環境は変わる
5~6年ほど前からは環境意識の普及啓発に向けたセミナーや環境教育を推進するNPO法人湘南クリーンエイドフォーラムに所属。各地でイベントを主催し、ごみ問題の啓発活動にも力を入れています。
「拾ったごみの種類を分けて分析する“調べるビーチクリーン”や、神奈川県内10か所の海岸での“一斉ビーチクリーン”、毎年秋には横須賀から湯河原までの自然海岸150キロ全てを11日間かけてビーチクリーンする“ビーチクリーン駅伝”を開催しています。」
イベントには全ての回に参加するため、休日もフル稼働の古川さん。他にマイクロプラスチックに特化したビーチクリーン“10000ピースプロジェクト”も実施。1メートル四方の砂の中のプラスチックを、ザルなどを使って完全に取り切ったら1ピースとしてカウント。SNSに取った場所とピース数を入れ、“#10000ピースプロジェクト”をつけて発信。まずは10000ピースを目指して活動しているそう。こうした取り組みの輪は湘南から静岡や千葉、神戸、沖縄など全国に広がっています。
それにしても、毎日早朝から海岸に出かけ、休日もイベントにフル出場。その情熱はどこから生まれてくるのでしょうか?
「きっかけはちょっとしたことだったんです。ある日サイクリングロードをジョギングしていた時、結構ごみが転がっているなと。その後改めてサザンビーチを見てみると、そこにもごみがたくさんあることに気づいて。私はサザンビーチが好きで中海岸に引っ越してきた。だから家の近くのビーチは綺麗に保ちたい。その思い一つですね。サーファーの方などは私がビーチクリーンをしていると気さくに挨拶してくれたり、ありがとうねと声をかけたりしてくれる。ありがたいですね。」
茅ヶ崎の海のごみ事情
実際に、茅ヶ崎の海岸にはどんなごみが多いのか?古川さんによると、特に目立つのはバーベキューごみ、たばこの吸い殻だといいます。
「サザンビーチは人が集まりやすい場所で、バーベキューを楽しむ人も多いです。多くの人はしっかりごみを持ち帰っていますが、中にはやりっぱなしでごみを放置してしまう人もいます。吸い殻はサイクリングロード沿いに年中落ちていて、暖かい季節になるとビーチにもちらほら出てきますね。吸い殻は2年前から拾った本数を数えていて、去年はサザンビーチだけで年間約30,000本。ポイ捨てされたもののほかに、強風の影響で漂着したフィルターも多い。タバコのフィルターはプラスチックなので自然に分解されないんです。」
そして、最近増えているのがマスクごみ。コロナ禍で多くの人が身につけている不織布マスクも実はプラスチックで、一度捨てられてしまうと分解されずにそのまま残り続けるそうです。
「海のごみの8割くらいはプラスチックですね。波や紫外線でどんどん細かくなり、マイクロプラスチックとなって拾えなくなる。そのマイクロプラスチックが海洋汚染を引き起こしてしまいます。」
こうした問題意識から、2022年3月にはサザンビーチにあるコワーキングスペース“Cの辺り”で開催されたイベント“海とプラスチックの学校”に清掃の先生として参加しました。
「はじめに参加者全員でビーチクリーンを実施し、集めたマイクロプラスチックを使ってみんなでアートオブジェクトを作ってもらいました。一人ひとりが意識することで大きな動きになるので、子どもたちをはじめ楽しみながらごみ問題に目を向けてもらいたい。コロナ禍ではなかなか人を集めにくいのですが、感染状況が改善してきたら積極的にイベントを開催したいですね。」
伝統の浜降祭は地域のコミュニケーションの潤滑油に
ビーチクリーンの他に、古川さんにはもう1つ海との大きな関わりがあります。それが、茅ヶ崎の夏の風物詩、浜降祭。暁の祭典と呼ばれるこのお祭りでは、夜明けとともに茅ヶ崎市とお隣の寒川町の神社から大小合わせて30基以上のみこしが集まり、砂浜を乱舞します。
古川さんは中海岸の神輿保存会に参加。そこでのお付き合いを楽しんでいるといいます。「祭りはご近所付き合いのきっかけになります。保存会のメンバーは年齢も職業もばらばらだけどみんなフランクに接してくれる。そういうことができる環境は貴重だし、心地良いです。」
ただ、コロナ禍の影響で浜降祭は3年連続で中止。お祭りが開催されないことで地域の人たちのつながりが薄れてしまうことを危惧しています。
「寂しいですよね。3年も経つと子どもたちも大きくなって、祭りに興味を持てない子がどんどん増えてしまう。さらに年配の方はだんだん神輿を担げなくなってしまうので、神輿文化が先細ってしまうのではと心配です。地域の人がつながる機会が失われないよう、来年こそは開催できるといいですね。」
ビーチクリーンなんてしなくてもいいくらいの綺麗な海を保ちたい
「これからもサザンビーチを裸足で歩けるビーチにしたいですね。サザンビーチでは砂浜を維持するための養浜がされているのですが、そこに盛られた砂の上を歩いているとごつごつした岩やガラス片、鉄くずなどにまだまだ出会う。雨が降った後に晴れるとガラス片がキラキラ光るので、それを目印に拾いに行っています。なかなか終わりは見えないですが、拾えば少しでも前に進むと信じています。ビーチクリーンなんてしなくていいくらいの綺麗なビーチでぼーっとできる。そんな環境が保たれるといいですね。」
最後に、サザンビーチを訪れる方へのメッセージをいただきました。
「ここは素敵なところなので、たくさん遊びに来てほしい。でも、残していっていいものは楽しかった記憶と足跡だけ。ごみはしっかり持ち帰ってもらえたら嬉しいです。」
茅ヶ崎と聞くと、多くの人がキラキラした海沿いの暮らしを思い浮かべます。古川さんのような毎日のビーチクリーンがSDGsの目標14にもある海の豊かさのある暮らしを守っているのでしょう。
information
■サザンビーチちがさき
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/kankou_list/koen/1006949/1006955.html
■湘南クリーンエイドフォーラム
https://shonan-cleanaid.org/
https://shonan-cleanaid.org/category/report/
■Cの辺り Coworking & Library
https://be-inc.life/cnoataritop
■中海岸神輿保存会
https://blog.goo.ne.jp/nakakaiganjinja
■浜降祭
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/kankou_list/event/1006906/1006924.html
■茅ヶ崎ビーチクラブ 蜻蛉組
https://www.facebook.com/groups/426422484227444/
■特定非営利活動法人 HONKI University
https://www.honkiuniversity.com/
https://www.facebook.com/HONKIUniversity/