山にも海にも出やすい神奈川県山北町。首都圏にも近い移住先として注目を浴びている山北町には、移住者本人はもちろん、動物や生き物ものびのび暮らせる日常があります。暮らしぶりや今後の夢について移住者を取材しました。
東京出身タクシードライバーが山北移住。夢はロバ・ヤギ・ヒツジ・ニワトリを飼う!!/古川裕子さん
20年ほど前から「将来的には山暮らしをしたい」という夢を描いていた古川裕子さん。2022年にその希望を叶え、東京都から神奈川県山北町へと移住しました。
移住後には、町と地域有志からなる「やまきた定住協力隊」としても活動。〝先輩〟移住者として、その経験を移住検討者へと伝えています。今回は、そんな古川さんの「やまきた暮らし」について聞きました。
移住見据えた仕事選び
実は、タクシードライバーという職は将来の移住を見据えてのことでした。古川さんは「たとえどこに越しても、この仕事ならどうにかなるはず」と考えていたのです。
計画では50代くらいまでは東京で移住の資金を貯めようと思っていましたが、新型コロナの影響で東京での仕事環境は一変。「思い切って予定を繰り上げた」といいます。同じ仕事でも「足柄地域は人と人との距離が近い」と感じており、馴染みのお客様とのやりとりは楽しみの一つです。
移住先の条件は、はっきりしていた
(1)東京で暮らす両親のもとに日帰りで帰省できる場所
(2)山寄りの場所でありながら、海にも出られる場所
(3)いつかロバ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリが飼える場所
(4)畑づくりができること
(5)豊富な水に恵まれている
以上5つが移住先の条件。候補に挙がったのは千葉・神奈川・静岡。この中から諸条件を考慮し神奈川が残り、山北町を知ることになります。
“ご近所さん”感覚が残るまち
古川さんは何でも自分の目と耳で確かめたいタイプ。「ぜひ、ご自身で地域の人にもいろいろ聞いて見てください」という町のスタイルが性に合いました。空き家バンクであらかじめ目星をつけていた物件を紹介してもらうと、ご近所さんに自ら積極的にアプローチ。暮らし方などをリサーチしました。
おすそわけ・ごはんを一緒に
人の輪に入る中で感じたどこか懐かしい感覚に「ここならきっと大丈夫と思った」と振り返ります。今ではおすそわけをしたり、ごはんをともにしたりと交流は深まるばかり。隣に誰が住んでいるかも分からない東京暮らしに不安も感じていた古川さん。東京で失われつつある「ご近所コミュニティ」が山北町には残っていました。
自分の目と耳で確かめて
移住者として、検討中の人に贈るメッセージを伺うと、「周囲の言葉や情報を鵜呑みにするのではなく、自分が実際に感じたことを大切にするのがよいのでは。移住は誰にとっても大きな決断なので、季節を変えて繰り返し訪れたり、場合によっては賃貸住宅を使ってプチ移住を経験したりしてからでも遅くはないと思います」という答えが返ってきました。
ちなみに、山北町には、移住体験ができるお試し住宅「ホタルの家」があり、多くの方に利用されています。自分の納得した暮らしをするためにも、自ら動くことが成功の秘訣かもしれません。
動物も人もみんな幸せになれる山北町/関裕さん・沙織さん夫妻
丹沢湖畔に佇む空き家に出合い、DIYしながら山北生活をエンジョイしている関さん夫妻。「どうも、こんにちは!」と関さんとともに大歓迎してくれたのが、2頭のワンちゃん『ジョン』と『トラボルタ』です。
すべては「ワンちゃんファースト」な生活を送るために、2022年に東京都世田谷区から山北町に妻の沙織(さおり)さんと移住。犬と一緒に楽しく暮らせて、仕事先である都内にも近い神奈川県内での移住先を1年がかりで探しました。
空き家バンクのサイト情報で検索し、訪ねてみたのが現在の住まい。「来てすぐに家を決めました。この環境はここにしかないと、即決でした」。
壁を取っ払い、開放的な空間へとDIY。裏庭はワンちゃんたちのために大改造し、思いっきり遊べる庭に。「都内では絶対にできない毎日が送れていて。とにかく本当に毎日が幸せですね」。移住して以来、友人がたくさん遊びに来るようになったといいます。
移住した2022年の冬には丹沢湖花火大会が開催。目の前に打ち上がる夢のような“特等席”となる自宅に友人を招き、バーベキューをしながら楽しいひとときを過ごしたそう。
森林セラピーで健康に
都内時代は大病を患い、また、ジョンとトラボルタもストレスからかしばしば体調不良に。しかし、「山北町に来てから数値が良くなって。すごいでしょ?犬も健康になって。この自然の環境は素晴らしいです」。
現に関さんの自宅エリアは、国立公園指定内エリア。森の中を歩きながら健康促進につなげる事業「森林セラピー」に町をあげて取り組むのは、全国的にも珍しいのだそう。
犬の散歩コースの定番は、森林セラピーコースもある丹沢湖畔で、ぐるりと1時間30分の道のりを満喫します。
都内への電車通勤も「全く問題ないです」。小田急「新松田駅」まで車で行き、駅前に車をとめて(一日最大500円ほどで安い!)新宿まで実質1本。また、早朝ドライブは246号も東名もスイスイで1時間30分。東名の大井松田インターを下りて間もなく見える富士山の景色が「ただいま」とホッとする景色だといいます。
夢のある幸せな暮らし
「みんな山北町に住めば良いのに、て。そう思います。山北町の良さを知るには、ぜひ我が家にお越しください(笑)」と関さん。それでも不便なところはありますか?との質問には、「御殿場線の本数がもう少しほしいくらいですね」と。しかし、「それ以外は、このままで良いです。山北町はこれ以上便利になったら良さが無くなっちゃうから」。
いつかは、この山北町の環境に馴染み、人や犬が集うドッグランカフェを開業するのが夢だそう。取材中、「本当に幸せ」と何度も言葉を重ねる関さん。移住からわずか1年。今、最も山北町での生活を「幸せ」と感じているのが関さん夫妻なのかもしれません。