「どの子も、毎日何かに夢中になっている」。そんなお母さんの声を聞いて取材したのが、この厚木緑ヶ丘幼稚園。厚木市のほぼ中心、緑ヶ丘の閑寂な住宅街にあるユニークな外観の建物だ。
9時から登園が始まると、その後は自由な遊びの時間。沢山の遊具を縫うように子どもたちが駆けまわっている。1時間たち、2時間経ち、どの子も目的を持って動き続けている。子どもって、こんなにタフだっけーー?。
宮崎昌彦園長に聞くと「鬼ごっこが多いですね。遊びながら俊敏性や巧緻(こうち)性、持久力もつく。けがや事故の防止にも繋がるんです」。
園長が遊びに加わると、1日で1万歩を超えるらしい。確かに三輪車で坂を下る子がいても、縦横無尽に駆ける子が沢山いても、不思議とぶつからない。遊ぶ中で視野が広がり、周りを見る力が養われるから、みんなお互いを避けるのが上手だ。
屋上は公園!建物内は隠れんぼ天国
園内には砦風のアスレチック、滑り台、お店屋さんごっこで使えそうな木製の建物も。大きな坂が園舎をつつみ、歩いてゆくと頂上は、なんと草が茂る公園。そこには青空が開けていた。
園舎の裏も通り道。隠れる場所や居場所が多いから、園児一人あたりの職員数は多めだ。一見和やかな先生だが、あの子がいそうな場所はだいたい分かる。アンテナを高くして見守り、職員間の報・連・相談も密に。日本でも有数の建築家・長谷川逸子先生がデザインした園舎は、まるで小さな街のよう。
「砂場も大切な遊びの場です。水を加えて砂が変化するのも楽しく、探求心が広がります。ほかの遊具を加えれば遊びが広がる。作っているものが大きくなると周りのお友だちと交渉することになるし、同じ目標で活動している子がいれば、協力し合い、より大きなものを作れる。作業を分担して広がっていくこともあります」(難波有三学園長の文章より)
きみのチャレンジ、お手伝いするよ
ホールでは9月生まれのお誕生会が始まった。誕生日の歌や月の歌、保護者と先生たちのトークタイムも。
マイクを握った親から子へ、そして先生からの贈ることば。
「好きな事に沢山チャレンジして」
「逆上がりできるんです」
「挑戦しているのはカッコいい」
「努力家だよね」
生まれた頃の思い出話もーー。
跳び箱や鉄棒など、器械運動に熱中する子も多い。やりたい子が入れ替わり立ち代り、鉄棒につかまる。時には先生が練習の成果を見せることも。「みんなチャレンジしてね。お手伝いします」。
ある先生は「失敗してもいい、成功してもいい、それに向かって頑張る事が大切なんです」とにっこり。
何もしないより、あれも、これもやったことがある、沢山失敗もしたけれど・・・それが緑ヶ丘の子どもたちだ。園のスローガンは「心豊かにたくましく」。
お昼は屋上?丸くなる?自分たちで決める
クラスごとに給食が始まった。お昼をどう過ごすかも、自分たちで決める。きょうは「丸くなって食べよう」。天気がよければ屋上の公園で青空ランチの日も。食べ終わったら飲み物容器は自分で洗い、歯磨きタイムへ。
園のあちこちで出あうのが、カメやニワトリなどの動物だ。抱っこして、においや温もりを感じて、命を知る。もちろん園内で命を終える動物たちもいる。「動物をお世話しなきゃ。それなら何をしたらいいんだろう?」。命あるものをお世話することの、責任ややりがいも園児は感じているのかもしれない。
遊びが終盤になると、年長、年中、年少の軸をこえて子どもたち同士で呼びかけ合い、手伝う場面が多い。「年長さんは面倒見がいい」と先生たちが話す。
保育室では読み聞かせに集中する風景があり、わらべ歌が響いた。唄や拍子に合わせて、体の動きを少しずつ加えてゆく。周りを見て聴いて、合わせることを楽しむ。読書の部屋もあり、お母さんの読み聞かせサークルもあるらしい。
アイアイ(預かり保育)は園児の3割が利用
厚木緑ヶ丘幼稚園は認定こども園で、177人の園児の保護者の3割程が「アイアイ(預かり保育)」を利用している。7時~19時までの時間で対象は2歳から5歳まで。仕事と子育ての両立といっても、実際は予想をこえる「大変」の連続。こうした体制はうまく活用したいもの。
帰路につく子どもたち。園でエネルギーを使い果たして、家ではすぐ寝てしまう子が多いとか。
迎えのお母さんたちに、厚木緑ヶ丘幼稚園を選んだ理由を聞いてみると、「自主性」の3文字が共通していた。
「思いきり遊ばせてもらえるし、自主性を大切にしている。子どもが考えて組み立てるのを、穏やかに見てくれる雰囲気だったので」別のお母さんはこう語る。「子どものやりたい事を尊重してくれる園。この賑やかさにびっくりするお母さんも多いけど。遊びはひらめき、発想力の源だと思う」
厚木緑ヶ丘幼稚園には遊びがある。ただしその数と種類は、他とは桁違いかもしれない。子どもたちが経験する「やりたい」「だめだった」「できた」「みつけた」。それを先生たちがさりげなく、そっと差し出す。経験が、毎日にぎっしり詰まっている感じだ。
ある先生は「小さい子に怒る必要はない」という。もし危ない‥というシーンがあっても、単なる注意ではなく、なぜ危ないか、どうなるのかを気づいてもらうよう、語りかける。
- 大人の記者も、生き生きとした園児を見ていて羨ましくなった。園の毎日を綴ったブログもぜひチェックを。