1606年創建の常栄寺は、鎌倉期にこの地に住んでいた尼が、刑場に引かれていく日蓮にゴマ餅(ぼたもち)を捧げると、奇跡的にその命が助けられた(龍ノ口法難(たつのくちほうなん))との故事から「ぼたもち寺」と呼ばれ、毎年9月12日の御法難会(ごほうなんえ)では、参拝者にもゴマ餅が振舞われる。
ここに咲く花といえば、早春の頃は椿。八重の赤い花々が新年を告げる。本堂左では、紅白の梅が春の甘い香りを放つ。季節が進み三葉躑躅(みつばつつじ)が濃桃色の花を咲かせると、薄紅色の八重桜や黄色い連翹(れんぎょう)なども次々に花開き、境内は春色に染まる。
初夏の頃は躑躅(つつじ)。山門周辺が赤やピンクの色鮮やかな花々で彩られる中、境内では紫蘭(しらん)が一斉に咲き始める。稲荷社近くの常盤山査子(ときわさんざし)も、沢山の白い細かな花々を付け、秋には真っ赤な実を結ぶ。盛夏の頃は松笠菊(まつかさぎく)。真夏の太陽の下で黄色の花弁が輝く。夏の終わりには、花虎(はなとら)の尾(お)が境内の其処此処(そこここ)で薄紫色の花を付ける。
秋には花縮砂(はなしゅくしゃ)。参道に咲く真っ白い花々から甘い香りが漂う。境内では、紅白の萩や芙蓉をはじめ、深紅の彼岸花や薄紅色の秋桜(こすもす)の花々が競うように咲き、賑やかさを増していく。そして初冬には、薄黄色や紫色の葉牡丹(はぼたん)が境内に彩を添えてくれる。
源頼朝が、由比ヶ浜での鶴の放鳥(放生会(ほうじょうえ))を見物するため、裏山に桟敷を設けたと伝わる常栄寺。小さな境内ながら四季折々の花々が咲く、日蓮縁(ゆかり)の名刹(めいさつ)である。
石塚裕之