茅ヶ崎市十間坂在住 中村繭子(なかむら・まゆこ)さん
茅ヶ崎市内の畑の一角で「マカナ養蜂園」を営む。ご夫婦で非加熱のハチミツづくりに取り組んでいる。会社員の夫と、0歳(取材当時)の男の子の3人家族。トリマーの資格を持ち、愛犬家の一面もある。
営業アシスタントから転身して養蜂で起業。その想いとは
生後10か月の男の子を抱っこしてインタビュー取材に協力していただいた中村繭子さんは、茅ヶ崎市内で「マカナ養蜂園」を営んでいる。
「養蜂園」というと、顔をベールで覆って作業服を着て…、「もしかしたら危険を伴う仕事なんじゃないか?」と先入観を持っていたが、小柄でかわいらしい女性が積極的に活動されているギャップに、まず驚いた。
そもそも蜂に興味を持ったきっかけは何だろう?
「最初、養蜂をやってみたいと言い出したのは夫なんです」と中村さんは振り返る。農業の知識を身につけるために参加したセミナー会場で、たまたま開催していたのが「養蜂セミナー」だったそう。
「養蜂セミナーを受講したわけではないんです(笑)。『蜂を育てることができるんだ。やっている人も少ないし、面白そう!』って興味を持った主人が、SNSを通じて鎌倉の養蜂家と知り合いになりました。その方にお願いして1年間修業をさせていただき、私たちは夫婦で養蜂の勉強をしていったんです」
その後、会社員から転身して養蜂園をスタートした中村さん。最初は大磯のみかん畑の一角を借り、その後茅ヶ崎にも養蜂園を開設。十数年放置されていた梅の木と柿の木を農家さんと剪定し、太陽の光が畑に届くようにして、環境づくりから行った。
独立後の新しい生活では新鮮な発見の連続だったという。
「一番、大きな変化があったのは人とのコミュニケーションですね。今は茅ヶ崎市内農家さんの畑の一角をお借りしてやっているんですけど、農家さんとのお付き合いは勉強になります。農業って、先のことを計画してもそれ通りにいかないこともありますよね。お天気はあくまで予報しか分かりませんし、年によって違います。ですから、あくまでも目の前のことに真摯に向き合う姿勢が、私にとっても学びになっています」
また、養蜂家をはじめてから、感謝されることがぐんと増えたそう。例えば妊娠中。重たいハチミツを運ぶために、ご友人にお手伝いをしてもらった。
「本当にたくさんの人に来ていただき、人の温かさに触れました。こちらはお手伝いしてもらって“ありがとう”という気持ちで一杯なんですが、一方の友人たちも体験させてくれて“ありがとう”と言ってくれるんです。ビジネス用語でWin-Winという言葉がありますが、養蜂をやっていて、はじめて本当の意味が分かりました」
マカナ養蜂園では、文教大学の有志団体「森プロジェクト」の学生たちといっしょに、文教大学の敷地内で蜂を育てる活動も実施した。ここでも「貴重な体験ができた!」と喜んでもらえたのだとか。
愛情たっぷり、温かく見守って最高品質のハチミツを茅ヶ崎でつくる
養蜂園の1年の仕事を聞いてみた。「今は育休中なので、本当にゆっくりやっています」と話し始める中村さん。週に2度ほど畑に行き、蜂のお世話をしているそう。
養蜂園の仕事は、花の季節と同じサイクルで仕事が忙しくなっていく。毎年のスタートダッシュは2月。梅の花が咲いたら養蜂園の1年の仕事がスタートする。
「蜂たちは、花の蜜と花粉を集めて、それらを子どもたちの食事にしています。花粉が少なかったらそれに変わる餌をあげるのも私たちの仕事です。とにかく春先はたっぷりと栄養を与えて、春から梅雨前の採蜜シーズンに備えます」と、まるで、我が子のことを話すよう。愛情たっぷりに育てている様子が伝わってきた。
夏になると気温が上がって蜂の活動が鈍くなるため、養蜂のお仕事も一段落。秋は採蜜シーズンで忙しく、並行して各種イベントへの出店準備なども実施。
冬の間、害虫から蜂の巣箱を守り、寒空の下で巣箱が冷えすぎないように巣箱を断熱材で囲ってあげるのも中村さんの仕事だ。蜂たちが少しでも快適な環境で冬が越せるようにと、優しい気遣いに感動した。
「こうやって1年間、手間暇かけて育てていますから、気分的にも絞りたてのおいしさは格別です。遠心分離機を使ってハチミツを絞り出すんですが、作業中から甘い香りがふわっと漂ってきて幸せな気分になりますね。みなさんにもこのおいしさを味わっていただきたいです」
一般的にスーパーなどの店頭で販売されているものは、加熱して殺菌処分されていたり、もしくは糖分が加えられていたりするものもあるというが、マカナ養蜂園の蜂蜜は非加熱製法。新鮮そのもので栄養価も高く、そのまま舐めても、スイーツの甘みとして使ってもおいしくいただける。
無限大に広がる、ハチミツの可能性とは?
ハチミツは食用だけでなく、さまざまな活用方法があるという。ハチミツの可能性についても話していただいた。
「普段、食用にしているハチミツ以外にも、子育てをしているとわりと身近なところに“ミツロウ”を使った製品を見かけます」
ミツロウとは、ミツバチの巣を作る材料で、ミツバチのお腹から分泌される天然素材だ。中村さんが紙箱から取り出して見せてくれたのは、マカナ養蜂園のミツロウを使ったクレヨンだった。ココアや野菜が原料となった着色料を入れてミツロウに色を付けると、クレヨンとして利用できる。
「このクレヨンは、全部口に入れられるものからできています。小さなお子さんが万一に口に入れたとしても、安心・安全な原料です。まだうちの子は0歳なので使っていませんが、もう少ししたら使ってみたいな(※)」
※厚生労働省のホームページには「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから」と記載されている。
クレヨン以外にも、ミツロウのろうそくも作ることができる。最近では、ハチミツの成分を利用した効果にも注目し、ペット用品の商品開発もアイデアを温めているんだとか。「肉球用ミツロウクリーム」や「ハチミツシャンプー」など、楽しいアイデアがいっぱいだ。
「蜂も好きですが…、私、ワンちゃんも大好きなんです。ハチミツやミツロウが持つナチュラルな保湿成分・殺菌作用はペットのケア用品にもぴったりだと思います。実は私、お顔を洗うときに、こっそりとハチミツパックもしているんです(笑)。やっぱり化学成分とは違って、使っていても気持ちがいいですよ。きっとペットたちも気持ちがいいはず」
自分のスキルを生かして、生きていく
まだまだ子育てに忙しい中村さんだが、将来の事業計画を聞いてみた。すると意外にもその返答は自然体そのものだった。
「今はまだ子育て期間なので、養蜂の仕事も育児休暇中でゆっくりペースです。いま、目の前の仕事は子育てが最優先ですね。この子がもう少し大きくなって、預け先ができたら、養蜂園をやりながらトリマーもやってみたいな。仕事を一つと決めず、自分のスキルを生かして色んなことをしていきたい」と笑顔で語ってくれた。
子育てに奮闘しながら、たくましく前向きに活動している中村さん。これから、ハチミツの販路開拓にも少しずつ取り組んでいくという。茅ヶ崎のショップに、金色に光る小瓶が並ぶ日を楽しみに待っていたい。
Information
マカナ養蜂園
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