映画『おくりびと』(2008年公開)で脚光を浴た「納棺師(のうかんし)」。普段はなかなか出会うことのない現役の納棺師のお話から、「人生100年時代」にふさわしい新たな終活のあり方が見えてきました。
納棺師 今井裕理さん
今回、話を聞くことができたのは、神奈川県内の葬儀会社勤務する社員で納棺師の今井裕理さん。今から10年ほど前に技術や作法を学び始め、平塚、横浜で研鑽を積んだ今井さんは「納棺師がお迎えもできる」現在の葬儀会社で勤務するようになりました。故人が息を引き取った場所に直接出向き、温度や環境を感じ、直後のご遺体を直接見ることでより良い納棺ができるといい、葬儀やその後の法事にも親身に寄り添うことができるため、「納棺師として充実した仕事ができています」と、今井さんは話しています。
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一連の葬儀では「お迎え」「納棺」「火葬」の3つの節目があり、そのうちご遺体を「棺(ひつぎ)」に収める納棺師は、故人の身繕いをするのが主な役割で、旅支度をする「納棺」はとても大きな意味合いを持つ儀式だといいます。
ご遺体の状態は、最期を迎える場所や状況によって様々で『生前のお顔に戻したり近づけたりするのが、納棺に向けた最初の身繕い』だと今井さんは言います。
故人の最期を看取ることができなかったご家族は「苦しかったのでは…」「痛かったのでは…」「辛かったのでは…」という思いが先に立ち、故人と対面したときに泣き崩れることが多いといいます。故人の表情も時間の経過や重力などにより次第に変化してくため、「生前のお顔、できれば、ほほえんだお顔に戻してあげること」で、ご家族が次第に故人の死を受け入られるようになるといいます。
そのあとの納棺から火葬までの「時」を今井さんは、「かけがえのない時」といいます。
「終活」の本質
その限られた「納棺までの時」に日頃から思いを致すコトが「終活」の本質になるともいいます。
今井さんの経験によれば、棺に入るときに身に着けたい衣服をあらかじめ用意しておく方は、まだまだ少数派だといいます。「納棺はある意味では旅支度ともいえる儀式。棺はいわば『最後のお城』で、そのお城を好きなもので一杯にするのは自然な発想です。そのためにはある程度のお時間が必要ではないでしょうか」。今井さんはそう語りかけます。
「終活」では、相続や断捨離、葬儀の規模やお金、お墓の準備といったモノやカネに心が傾きがちで、それらは避けられないことです。しかし「最期の城」である棺をどんな風に仕立てるのかを日頃から考えておくと、心豊かにその「時」を迎え、見送る家族も穏やかにいられるのではないでしょうか。
- アドバイスのまとめ 納棺師の今井さんは「日ごろから最愛の家族との楽しかったコトを思い出し、好きだったモノを知っておくこと」が、悔いのない旅立ちと葬送のコツ。
危篤の状態から亡くなる人、ある日突然亡くなる人など、最期の迎え方は老若男女を問わず人ぞれぞれ。今井さんのアドバイスのように「終活」をとらえると、「人生100年時代」を穏やかに過ごすことができるかもしれません。
「納棺」に関するお話は、納棺師の今井さんから直接聴くこともできます。
※取材協力/㈱ふじみ式典(家族葬式場ゆかりえ)
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