ことぶきや模型店
登戸で60年以上にわたり商いを続けてきた「ことぶきや模型店」(登戸1992)が、2024年3月31日をもって、その看板を下ろす。店主の安陪修司さん(84)は「商売はお客さんや近隣の店主との会話、意思疎通がないと楽しくない。だから言葉を大切にしてきた」と、商人として過ごしてきた地域での日々を振り返る。
駄菓子から模型へ
同店は安陪さんの父・明寿さんが向ヶ丘遊園駅北口で営んでいた駄菓子屋「ことぶきや」を1961(昭和36)年に模型店に一新し、屋号も現在のものに変えた。会社員だった安陪さんは、仕事の傍らで商店街活動に奔走。店舗は妻の操子さんが切り盛りしてきた。定年退職後は安陪さんが店に立ち、経営に携わるように。2014年からは多摩区商店街連合会の会長も10年間務めてきた。
区画整理で仮店舗へ
店舗が登戸土地区画整理事業の区域内にあったため21年10月、60年の歴史に区切りをつけ現在の仮店舗へ移転。同年12月から営業を再開し、区画整理の動向を見ながら、新たな店舗で経営を続ける道も模索してきた。しかし仮店舗の契約が3月で期限を迎え、移転のめどがつかないことに加え、大手量販店や大型玩具店の台頭、インターネット販売の拡大などの影響で売上が圧迫されるという昨今の小売店舗が抱える問題にも直面した。「コロナ禍は外出控えで地元の店にお客さんが来てくれたが、今は量販店に客足が戻り、個人店は厳しくなった」。そうした状況下で、再開発が進み、地価が高騰する登戸界隈での再出発は現実的ではなく、このタイミングで店を閉めることを決意した。
なじみ客も惜しむ
店内には人がすれ違うのも困難なほど、所狭しと鉄道模型やミニカー、戦艦や戦闘機のプラモデルなどが積み上がり、愛好家や子どもたちが夢中になってお気に入りの一品を探す姿がよく見られた。取材したこの日は、鉄道模型が趣味で、10年以上前から同店に通っているという長尾在住の男性(70)が、「せっかくだから最後に」と小田急電鉄2600形の模型を購入。「新作の模型が出ると立ち寄っていた。でも、最初に買ったのはゴジラの模型だったかな。古くからあるお店がなくなるのは寂しいね」と閉店を惜しんだ。
安陪さんは「家族で頑張ってきたけれど、この辺りで引退。また次の楽しみを探さないと」と気丈に振る舞う一方で、「一抹の寂しさはある」とぽつりと呟く。「親子で店に来て、父親が『子どもの頃、お父さんも窓越しに模型をのぞいていたんだよ』と、自分の子どもに話してくれているのを聞いて、うれしかった。そういう、昔を懐かしむ場所だという印象を持ってもらって店を終われるのなら、役目は果たせたかな」