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初の個展から25年間、毎年茅ヶ崎で展覧会を開催 温かく、素朴な作品をつくり続ける木版画家<わたしの茅ヶ崎暮らし>

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茅ヶ崎市東海岸南在住 古知屋恵子(こちや・けいこ)さん
茅ヶ崎市西久保出身。幼い頃から絵画教室に通い、多摩美術大学へ進学。卒業後は主に木版画の作品を制作。25年前、ギャラリー「街路樹」で個展を始めてから、毎年欠かさず行っている。今年はコロナ禍の影響もあり「街路樹」と「カフェ&ギャラリー とどや」の2箇所にて開催。

作品に魅せられ、長く応援してくれる地元ファンが多数

茅ヶ崎・中海岸にある、カフェ&ギャラリー「街路樹」。取材当日は、木版画家・古知屋恵子さんの個展が開催されていた。描かれた人物の温かさやかわいさに思わず見入ってしまう。熱心に鑑賞していたお客さんに話を聞いてみた。「彼女の作品は、最初は色の美しさに魅せられるのですが、時間が経つと今度は描かれている人物のキャラクターに魅了されるんですね。また、モノクロの作品は、物事の核心をついてくるような迫力や気づきがたくさんあります。彼女の作品の魅力はひとことでは語り尽くせませんね」とのこと。

個展の終了時間になりギャラリーに人がいなくなると、「ここで話しましょうか」と作品に囲まれた場所でお話を伺うことができた。小さな頃から絵を描くことが大好きだった古知屋さん。絵画教室に通い、たいていの人が辞める中学生になっても通い続けた。その後は、絵画教室の先生の「同世代の人と絵を描いたほうがいい」とのすすめもあり美大予備校へ。それまで美術の大学があることも知らなかったそうだが、「同世代にこんなにも絵を描く人がいる!」と嬉しくなり、創作意欲にも火がつき、見事美大へ合格。

大学では油絵と銅版画を学んだが、卒業後は自宅で大掛かりな機材なくできると言う理由で、独学で木版画を始めた。「きちんと習っていないので小学校で皆さんがやるのと同じやり方です。おそらく同業者が見たら驚くぐらい、昔ながらの作り方だと思いますよ(笑)」

「1年の半分は遊ぶ。それが作品をつくり続ける秘訣です」

常に新作をつくり、個展で発表している古知屋さん。毎年販売される新作入りのカレンダーは大人気だ。作品のテーマはどのように決めているのだろう。

「前半の半年間は、とにかく遊ぶんですよ(笑)。特に意識しているのは、人と出会うこと。私は本などからインプットするよりも、実際に人と会って、その人の人生を聞くのが好きなんです。それが作品のインスピレーションとなることも多いです」

たしかに、古知屋さんの作品には実在する人も多く登場する。しかし、そうは言っても限られた生活圏の中で、新しい人に出会うことは難しくないだろうか…?

「出会いって、身近にいっぱいありません?私は知らない人と積極的に話すようにしています。例えばとても素敵なリュックを背負っている人を見たら『素敵ですね』と声をかけるとか。ささいなことですが、外部と繋がる意識を常にもっていると、意外なご縁を引き寄せることがあって面白いんですよ」

住み心地のいい茅ヶ崎だからこそ、芸術家として意識していること

自分以外の人が新しい人と出会う場を作ることも楽しいと古知屋さん。コロナ禍以前には月に一度、自宅で「イングリッシュティー(英会話の練習をする目的で、英語でお喋りをする会)」を開催していた。

「イングリッシュティーを企画しているっていうと、私が英語を上手に話せるように思いますよね?私、英語は話せないんです。中学生レベルのカタコト。でも、話せる環境を作れば面白いかと企画したんです」

きっかけを聞いてみると、「たまたま出会った陶芸家の女性のお名前が外国の苗字だったので、聞くとパートナーはイギリス人。このカップルを家に招いたのが1回目でした。質問したいから英語を話さないといけない。なので、英語を話しても違和感のない環境をまず自分で作ってみようと思いました」

次第にうわさを聞いた友達や、友達の知り合いなども参加するようになった。「老若男女いろいろな人が集まりましたよ。まったく面識のない人たちが毎回テーブルに集うのも新鮮で。普段の生活では交わらない人同士が交流するのって楽しいですよね」

古知屋さんがこんなふうに人との出会いを大切にしているのには理由がある。それは幼い頃から通い続けた絵画教室の先生からの言葉だ。「茅ヶ崎は、暑くも寒くもなく、都会でも田舎でもない場所。こういった過ごしやすい場所は、平穏な気持ちでいられる反面、芸術家にとっては厳しい環境とも言える。意識して感性を養い、刺激しないと芸術家にはなれないよ」

古知屋さんが今なおこれほどみずみずしく感性を開き続けている行動の根底には、先生の言葉があるのかもしれない。

25年間、「街路樹」で個展を開催

過去25年間で作られたカレンダー

古知屋さんが「街路樹」で個展を開催したきっかけについてもお話を聞いてみた。

ある日、立ち寄った「街路樹」(当時はギャラリーではなく陶器屋だった)で、オーナーと話をするうちに思いがけない提案をしてもらったという。

街路樹オーナーがモデル「店番の主人」

「オーナーが『あなたの絵、この店の壁に飾りなさいよ』と言ってくださったんです。私の絵も見ていないのに。そして本当に翌日には陶器屋さんの一角に私のコーナーができてしまったんです。さらにその1年後には『街路樹』がギャラリーになり、初めての個展をさせてもらいました。それ以来25年間、欠かさず毎年『街路樹』で個展を開催しています。ギャラリーの移転時も、解体工事が始まる中、大家さんに頼んで、私の展示が終わるまでは壊さないようお願いしてくれました。次の年には私の個展の日程に合わせて新しい場所を見つけてくれて、「間に合ったよ」と笑顔で私を迎えてくれました。おかげで私は初めての個展から25年間、休むことなく毎年個展を開催することができています」と古知屋さん。

25年前、なぜ古知屋さんの作品を展示するコーナーを作ることにしたのか。「街路樹」のオーナーにたずねてみると、「嘘のない真っ直ぐな誠実さが伝わってきたんですよ。若いエネルギーに満ちていて、サポートしたいと思ったの」とのこと。

「あのときオーナーが声をかけてくれたから、今の私があります。私にとって、茅ヶ崎で展覧会をする事はとても大事なことなんです」と古知屋さん。

芸術家として、今この世界でできること

「あなたの本当に大切なものは?」(古知屋さんインスタグラムより)

最近、古知屋さんの作品をインスタグラムで見たチリのアーティストから、連絡があった。「『今、世界で起きている状況は、アーティストとして記録する義務があると思う。今度、世界中の木版画家の作品を集めてパンデミックの展示会(※)をするので参加しないか』とのお誘いがありました」

※pandemicの全版画はwww.grabadopandemico.cl
https://www.instagram.com/grabadopandemico/?hl=ja で見ることができます。
※Web展示会のほか、実際の会場での展示会も巡回して行われています。

そのほかにも今後やっていきたいことがある。

「絵本の制作です。これまで20冊以上つくって、うち2冊の本を出版していますが、絵本や自作紙芝居を展示会でまた行いたいですね」

子どもに向けて、世界に向けて、古知屋さんの温かな作品はこれからもどんどん広がっていくだろう。

Information
■古知屋恵子さんホームページ
https://kochiyakeiko.jimdofree.com
■古知屋恵子さんInstagram
https://www.instagram.com/kochiyakeiko/
■カフェ&ギャラリー街路樹
Facebook:https://m.facebook.com/gairojuchigasaki/
Instagram:https://www.instagram.com/gairojuchigasaki/?hl=ja

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公開日:2021-04-01

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