いつか必ず訪れる「別れの時」。人が亡くなると葬儀を執り行うのが現在の日本の常です。一方、「葬儀」の形式は社会の移り変わりとともに変化してきました。
誰しも上げる可能性のある葬儀ですが、実際に執り行う機会は限られており、「正しい葬儀のあげかた」を学ぶ機会はあまりないのが実情です。後悔したくない最期の別れの時ですが、準備や作業にかかり切りで、ゆっくり故人と対話する時間が作れなかったり、いざ執り行う段になってから次々にトラブルが起こってしまった、という事例も少なくありません。
現代にあった葬儀の形とはーー?
餅は餅屋、葬儀のことは葬儀屋へ。藤沢市には、戦後から地域の葬儀の安心を支え続けてきた「藤沢市葬祭業組合」があります。地域で葬儀を執り行う際、「葬儀のプロ」として準備や当日の手はず、後始末まで、ご遺族のサポートを続けてきた地元企業からなる、プロ集団です。
皆さん、以下の質問に思い当たる節はありませんか?
〇感染症禍の葬儀 感染対策の方法はどうしたらいい?家族葬になった時、関係者へ角が立たない来席控えの連絡方法と伝え方は?
〇葬儀の高齢化 参席者の平均年齢60代超えの葬儀の注意点は?高齢夫婦だけの暮らしになった時に備えるべき葬儀の準備は?
〇防災と葬儀 震災など災害有事における葬儀社・組合の役割とは?葬儀が「公共事業」とも呼ばれる理由は?
〇葬儀後の故人との向き合い方 故人を弔った後に思い出を偲ぶ、法事の意味って?どんな場所を選べばいい?
〇少子高齢化の葬儀 どうして家族葬が増えているの?故人の願いを叶える葬儀の在り方は?
知っておくと安心な葬儀の基本のキや、気になるけど聞きにくい葬儀のアレコレ、「葬儀の最新事情」。藤沢市の葬儀を支えてきた組合加盟の葬儀社に話を聞くシリーズです。同組合独自の、遺された人たちの暮らしを負担しない「葬儀に必要なものだけ」を盛り込んだ「うち輪の葬儀(12万1千円)」についても紹介します。
「岡本葬儀社」に聞く葬儀と災害
第三弾は、災害と葬儀の関係です。いつ起こるか分からない災害。大規模災害の場合、多くの人が命を落とし、通常の葬儀ではサポートし切れない状況が発生することもあります。組合では同社を中心に、市などの災害訓練に協力。また、実際に災害が発生した時は被災地の支援に取り組んできました。
葬儀社の災害訓練
災害発生時、命を落とした人たちへの対応は欠かせません。大規模災害により同時に多くの人が命を落とした場合、行政が中心となり遺体収容にあたります。その際、不備ないよう専門知識をもって答えるのが、組合の役割です。
いつ災害が起こっても問題ないように、藤沢市葬祭業組合は、棺の備蓄などの防災対策のほか、市や警察、消防などと協力し遺体収容訓練などを実施してきました。藤沢市での訓練は阪神淡路大震災をきっかけに県内でもいち早く始まり、約20年以上続く取り組みとなっています。
訓練では、多くの人たちが亡くなった場合、「何をなすべきか」「どう対応するか」を中心としたもの。具体的には、棺の組み立て方の指導や、ご遺体の処置です。「ご遺体を保存する際に欠かせないドライアイスを扱う際の注意点や、お身体のどこに置くべきかなど、必要な知識をお伝えし、一つ一つ確認しながら訓練を行います」と同社の岡本明彦代表は説明します。岡本代表は、訓練の開始当初から長年、防災訓練の責任者として、司会や指導の中心役を担っています。
訓練の際、最も大切にしていることは「故人様に対して、人としての尊厳を忘れないこと」と微笑みます。
現在こういった訓練の輪が広がり、藤沢市にとどまらず、横浜市、相模原市、小田原市など県内でも広く行われています。
葬儀社の被災地支援
組合では、訓練に留まらず、災害発生時には、実際に被災地での支援活動を行なっています。東日本大震災発生時、すぐに福島県相馬市へ支援活動に赴いた同社。支援に訪れた同業者らと協力し、葬儀の手配などに取り組みました。
支援活動には、神奈川だけでなく全国から多くの同業者が応援に訪れました。岡本代表の印象に残ったのは、阪神淡路や新潟、北海道など、かつて震災の被害にあった地域から訪れた人たちの言葉だそうです。「あの時は、多くの人達に助けられた。今度は自分達が協力する番だ」。
「日本には、助けてくれた人に直接恩を返す『恩返し』、助けてくれた人に直接返せない分、他の人に恩を返す『恩送り』という言葉があります。改めて日本人の心の素晴らしさを思い出し、感動しました」と岡本代表は話してくれました。
「故人様への人としての尊厳」を大切にした葬儀プラン
組合が被災地支援、訓練において常に大切にしている「故人様への人としての尊厳」だ。その思いを生かしたのが、費用を抑えつつ、故人との語らいの時間を持てる「うち輪の葬儀(12万1000円)」プランだ。
「地域の人の暮らしに寄り添い、声に応える葬儀を執り行うのが、組合一同の思いです」と呼び掛けます。
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バルーンで心繋ぐ〜防災フェアのバルーンアート〜
昨年開催された市の防災フェアで賑わいを呼んだのが、同組合ブースのバルーンアート。「来てくれた子どもたちに喜んでもらいたくて」と岡本代表が独学で身につけ、地元のイベントにまで招かれるまでになったという。
組合では、藤沢市の産業フェスタなどに参加した際も、輪投げコーナーやバルーンアートなど、訪れた子どもたちに喜んでもらえるような企画を実施している。岡本代表は「生きている方、亡くなった方、関わる全ての人に穏やかな心で接したい」と微笑んだ。
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