正月の風物詩、箱根駅伝3区・8区の茅ヶ崎の景観は昔からあったものではなかった

※この記事は茅ヶ崎市が取材・執筆したものです。

箱根駅伝のコースの中で随一の景観の3区・8区

国道134号の正面に富士山が見える第一中学校入口交差点

正月の風物詩となっている東京箱根間往復大学駅伝競走（箱根駅伝）が1月に開催され、2日の往路では戸塚中継所から平塚中継所までの3区で、3日の復路では平塚中継所から戸塚中継所までの8区で茅ヶ崎市内の国道134号を選手が走ります。

3区、8区ともに選手は25分程度で茅ヶ崎市内を通過してしまいますが、その間は国道134号の両脇は砂防林の松林、南側には相模湾、往路であれば正面に富士山を仰ぎ見ながら、復路であれば富士山を背に受けて走ることとなり、箱根駅伝のコースの中でも随一の景観と言われています。でも、この景観はずっと昔からあった、自然の景観ではないのです。

砂防林は昭和天皇の即位記念事業として、国道134号は失業者救済事業として昭和初期に整備

今では市街地と海との境に国道134号と松林を中心とした砂防林がありますが、古老からは「昔は松が丘の辺りの鉄砲道から南を見ると、ずっと砂地が続いて、その向こうに海が見えた」という話を聞いたことがあります。海沿いの砂防林は昭和天皇の即位記念事業の一環として1928年（昭和3年）に植林が開始されました。松は当初から現在の高さだった訳ではなく、今では想像しにくいですが、植林された当初は人の背よりも低いものでした。

松林の整備開始から遅れること3年、1931年（昭和6年）には世界恐慌による失業者救済事業として今の国道134号の整備が開始され、当初は湘南遊歩道路と呼ばれていました。湘南遊歩道路の整備は、「これまで交通の便が悪く、放置されてきた湘南海岸一帯」を気候温和な景勝地として開発を進めていきたいという当時の神奈川県知事山県治郎の強い思いによるもので、その結果、湘南地域は一大住宅地として発展しました。当初、県道として整備された湘南遊歩道路は、1965年（昭和41年）に国道134号としての指定を受け、現在に至っています。

箱根駅伝は、最初は国道134号を通っていなかった

箱根駅伝の第1回大会は1920年（大正9年）ですので、湘南遊歩道路の整備前から箱根駅伝は行われており、当初は国道1号を通る、現在とは異なったコースでした。湘南遊歩道路を通るようになったのは今から1961年（昭和36年）の第37回大会からです。

1955年（昭和30年）頃の湘南遊歩道路とまだまだ背の低い砂防林の松林（所蔵：個人、提供：茅ヶ崎市）

上の写真は植林を開始してから20年以上過ぎた1955年（昭和30年）頃の写真です。湘南遊歩道路とその両脇に松林がある現在の景観の面影は見て取れますが、松林は写真に写っているトラックよりも背が低く、まだまだ今の景観とは異なっています。現在でも往路の3区では、戸塚の中継所から藤沢の市街地を走ってきて、国道134号に出ると海風がきついときがあると言われていますが、風よけとなる松林が低かったこの当時は、選手はもっときつい海風を受けながら走っていたことでしょう。

海辺のまちだけど、市街地から海が見えない茅ヶ崎

砂防林の松林は、植林後90年以上の時を経て現在では高さ10mを超え、茅ヶ崎の市街地と海岸とを隔てる役割を果たしています。そのため茅ヶ崎は潮風を感じる海辺のまちだけど、市街地からは松林があるために海を見える場所は限られています。

砂防林の松林がはっきりとは見えない1946年の空中写真とはっきりと写っている2019年の空中写真（提供：国土地理院）

海沿いの松林は「砂防林」と呼ばれていますが、正確には「飛砂防備保安林」と言い、海風に乗って砂が市街地に飛んでくるのを防ぐ役割を果たしています。先日の風が強かった日、国道134号でも松林がない藤沢市を通る箇所では、道路に砂が溜まってしまったために通行止めになっていましたが、茅ヶ崎では通行止めになる箇所はなく、松林があったお陰と考えられます。

植林から90年以上が経過し、松林は海辺の景観としても、海の影響から市街地での暮らしを守る機能面としても、茅ヶ崎で暮らす人にとても大切な役割を果たしています。来年も多くの人が箱根駅伝を観戦されると思いますが、選手の走る姿だけではなく、海沿いの景観に想いをはせながら観戦するのも一つかもしれません。