小田急線愛甲石田駅からほど近い、家族葬専用式場「ゆかりえ愛甲石田」。落ち着いた佇まいのその場所で、ひときわ柔和な微笑みをたたえ、ご遺族を迎え入れる女性がいます。松田乙里依(まつだ おりえ)さん、31歳。
映画館の案内係、ビジネスホテルのフロント、そして石川県の老舗旅館での仲居職。一貫して接客の道を歩んできた彼女が、なぜ「人生の終着点」ともいえる葬儀の世界を、自らの「最後の職」に選んだのか。その理由を紐解くと、サービス業の枠を超えた、一人の人間としての深い慈しみが見えてきました。
人の最後に携わるのが「接客業の究極」
松田さんのキャリアを語る上で欠かせないのが、石川県の旅館で仲居として過ごした3年間です。伝統的な所作や、相手の求めるものを先回りして提供する「おもてなし」の真髄を学んだ日々。「仕事が楽しくて仕方がなかった」と振り返る彼女ですが、心のどこかで一つの問いを抱いていました。
「接客という仕事を究極まで突き詰めたいと考えた時、行き着いたのが『葬儀』という場でした。お祝いや観光の場でのサービスは素晴らしいものですが、人生で一度きりの、そして最も大きな悲しみの瞬間に寄り添うことこそが、私にできる最大の貢献ではないか。そう直感しました」
2023年、彼女はふじみ式典の門を叩きました。そこには、旅館での「華やかなもてなし」とは異なる、静かで、しかし重厚な「心のケア」が求められる世界が待っていました。
悲しみを「出し切る」ために、絶妙な距離感で「温度感を一緒にしすぎない」
葬儀の現場で松田さんが最も大切にしているのは、ご遺族との「温度感」の共有です。
「淡々と進めたい方もいれば、溢れる想いをすべて吐き出したい方もいらっしゃいます。私たちが感情を乗せすぎてもいけませんし、冷淡であってもいけない。その絶妙なラインを常に見極めています。お客様が『今、何を求めているか』を瞬時に判断するのは、仲居時代の経験が生きているかもしれません」
特に彼女が心を砕くのは、ご遺族が「後悔なく、式の中でしっかりと悲しみを出し切れるか」という点です。深い悲しみの中にいる人は、時に感情が凍りついたように動かなくなってしまうことがあります。
「お式の中で感情を出し切っていただかないと、その後の生活が辛くなってしまう。だからこそ、安心して泣ける、安心して向き合える空間を作りたいんです。最後の時間をどう過ごすかで、その後の遺族の心の回復は大きく変わります」
その言葉には、単なるスタッフとしてではなく、一人の伴走者としてご遺族の「その後」の人生までを見守る、プロとしての覚悟が宿っていました。
名前に込められた願いを体現する生き方
「乙里依(おりえ)」という彼女の美しい名前には、「乙女の里のよりどころ」という家族の願いが込められているそうです。
現在、ゆかりえでは「お迎え」から「式」の運営、そして「アフターフォロー」まで、一人の担当者が受け持ちます。分業制ではないからこそ、ご遺族一人ひとりと深い信頼関係を築ける。その環境が、松田さんにとっては何よりのやりがいとなっています。
「この仕事を、自分にとって最後の職にしたい。ずっと続けて、多くの方の力になりたいです。葬儀屋さんのイメージを変えたい。怖くない、何でも話せる存在になりたいんです」
インタビューの合間に「AIが人の仕事にとって代わるといいますが、葬儀の場合はどうなのか自分の目で見てみたい」と茶目っ気たっぷりに笑う彼女。その明るさは、深い悲しみの中にいる人々にとって、暗闇を照らす一筋の光のようです。
大切な人との「別れ」という、やり直しのきかない時間。松田さんは今日も、その名の通り、誰かの心がふっと安らげる「よりどころ」として、誠実に、適温で、人々の最後に寄り添っています。
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