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【前編・美術館”まで”つづく道】「烏帽子岩ってなに?」から始まった茅ヶ崎暮らし

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茅ヶ崎市東海岸北在住 藤川 悠(ふじかわ・はるか)さん

広島県出身。大学進学のため上京し、住まいを移しながら広島や都内の大型美術館に学芸員として勤務。2014年から茅ヶ崎市美術館で働き始め、その後茅ヶ崎に転居。ご主人と娘さんの3人暮らし。知識ゼロから始まった茅ヶ崎での生活が、今では“危険”なほどにまちの魅力にどっぷりハマり、充実した毎日を過ごされています。

「茅ヶ崎ってクジラが見れるの?」

茅ヶ崎駅南口からまっすぐ海へと続く高砂通り沿いにある高砂緑地。ほのかに潮の香りをまとった風が通り抜けるたび、陽のきらめきをまとった緑がそよぐ。

小道を抜け、ちょっとした坂をのぼった先に佇んでいるのが茅ヶ崎市美術館。藤川さんはここで学芸員として働いています。

大学では建築や環境空間の勉強をしていましたが、「どうしてもアートが好き」だったため、他学科の授業を受けて学芸員の資格を取得。卒業後は、勤務する美術館に合わせて住まいを転々とする暮らしをしていたそう。茅ヶ崎に住むきっかけも、やはり仕事でした。

「茅ヶ崎で学芸員を募集してるって聞いて、まずはふらっと見に来てみたんです。そしたら緑に囲まれたアプローチが素敵だったのと、建物のモダンでおしゃれなデザインにとっても惹かれてしまいました」

美術館に続く緑のアプローチ

茅ヶ崎市美術館。凛とした立ち姿が見事に風景と調和しています。

藤川さんにとって、実はこのときが初めての茅ヶ崎だったそうです。「訪れたこともなかったし、ほんとに何にも知らなかったんですよね。採用が決まった後、上席に名刺をもらったんですけど、描かれてた烏帽子岩が何なのか分からなくて。クジラかなと思って、ホエールウォッチングできるんですか?って聞いたらびっくりされちゃいました。まるで東京タワー知らないの?!と言わんばかりに(笑)」

名刺に印字された烏帽子岩のシルエット

まちに染まっていく、という感覚

茅ヶ崎市美術館で働き始めて半年後、正規職員になったことをきっかけに、ご主人と娘さんとの3人で茅ヶ崎に移り住みました。

「来てすぐの頃は、“茅ヶ崎の人が茅ヶ崎のことを大好き“なことに違和感があった」と振り返る藤川さん。「何でみんな、こんなに茅ヶ崎のことが好きなんでしょうね。しかも、好きの度合いが違う。住んでるまちにここまで愛着が湧くなんて、あんまり無いんじゃないでしょうか」

働く場所に合わせて住まいを選んできた藤川さんにとって、初めは地域に愛着を持つという感覚が分からなかったそうです。「でも、住んでいるうちにその気持ちがよく分かってきました。たしかに好きになっちゃうので危険です(笑)」

美術館2階のカフェでインタビューに応じてくれました

気づけば茅ヶ崎に住み始めてから、身に着けるものの色合いが変わってきたそう。「無意識のうちにブルーをよく選ぶようになった気がします。もしかしたら、あらゆるところでブルーを見かけるからかも」

「海も空も、そういえば遠くに見える富士山もブルーですよね」。そう言って後ろを振り向いた藤川さんの髪からは、ブルーのヘアゴムがちらり。

「茅ヶ崎で暮らしていると、感覚が茅ヶ崎ナイズされていくというか、ずれていっちゃうんですよね。都内の美術館のレセプションに行くときに、ドレスコードがあることを忘れてサンダルを履いていっちゃって。慌てて近くで靴を買ったことがあります(笑)」

ゆるく心地よい茅ヶ崎の空気感。住む人を“まちの色”に染めてしまうあたり、確かにここは“危険”なまちなのかもしれません。

“お好きなように”過ごせるまち

茅ヶ崎で暮らして7年目。最初は「環境に慣れるのに精一杯」だったそうですが、まったく知らなかったこの土地で、どのように知り合いを増やしていったのでしょうか。

「来てすぐの頃、ふと地域で知り合いを作りたいなと思って、体験型農園「リベンデル」に娘を連れて参加してみたんです。そしたら飲み友達もできて、徐々に知り合いが増えていきました」

交友関係を広げていく中で、「茅ヶ崎の人の“ベタベタしない感じ”」に気づいたそうです。「まちの雰囲気が、どこかのコミュニティに属さないといけないわけじゃないんですよね。でも、いざ勇気を持って飛び込んでみたら仲良くしてくれる。いつでも気が向いた時で大丈夫っていう、そんなゆるい感じが好きです。お店の人も押し売りはしなくって、あくまでおすすめという形で色々教えてくれる。適度な距離感があっていいですよね」

こんな景色を眺めていたら、自然と”ゆるい感じ”になってしまいそう

よく行くお店について尋ねると、たくさんの名前を挙げてくれました。

「疲れているときのエネルギーチャージ的に食べるのは、沢山の椎茸がのっている“横濱屋”のシイタケソバ。ちょっと贅沢な気持ちを味わいたいときは、お刺身やたくさんの小鉢がセットで出てくる“夏花“のうどん。今は行けないけど、アーティストさんと夜ご飯をご一緒するときは、”かいな“でちょっとしたおつまみと合わせて、白州や知多を使った贅沢なハイボールをいただきます」

今回、取材の場にさせていただいた美術館カフェ“ルシュマン”も、素材にこだわった料理の数々と緑に囲まれたロケーションが大好きだそう。職場の2階だし、ランチによく来るのかな?と思いきや、なんと藤川さんのランチは「職場で“作って”食べている」と言います。

「少し歩いたところにある“シャンボール“で食パンを、図書館の向かいの”マイクラウン“でレタスとかトマトを、”たまや“でハムをそれぞれ仕入れてサンドイッチにしています。見栄えとかは無視で、ただ挟んでるだけですけど(笑)」

なかなか斬新なランチスタイル。同僚の皆さんは「また何かつくってる(笑)」と温かく見守ってくれているそうです。

新鮮な野菜をふわふわのパンに挟んでガブリ!

続いて、藤川さんの海の楽しみ方を伺ってみました。以前は「海に全く縁が無かった」そうですが、茅ヶ崎に引っ越してからは海に通うことが多くなったとか。

「仕事で行き詰まりそうなとき、癒されたいときには海に行ってボーっとしています。海を見ているだけでいいんです。二重三重に考えなきゃいけないことがあるとき、ぐちゃぐちゃしたものがほどけていく気がします」

特にお気に入りなのは、空や風が秋めいてきた10月ごろの朝の時間帯。「仕事の前に、きりっとした海水に足をつけてぱしゃぱしゃして。波打ち際の海が浅くなって、鏡のように反射する砂浜に空が映り込む。スッと透明になった瞬間を待ってそこを歩く。大好きな時間です。」

おすすめの場所は、ラチエン通りを抜けた先の砂浜に置かれたベンチ。「烏帽子岩や波を待って浮かんでいるサーファーたちを、ぼーっと眺めています。人の目も気にしなくていいし、一人でいても全然さみしくない。海は心のよりどころですね」

烏帽子岩を真正面に見ながらぼーっとできる特等席

ほどける糸 ゆるまる“ねじ”

茅ヶ崎には「人を油断させる雰囲気がある」と藤川さん。「この職場に来た時は、結構緊張してたんです。これまでの経験上、美術館で働いている方の中には、こだわりの強い方もいらっしゃいますから。でも、ここに来たらみんなフランクに話していてびっくりでした」

印象的だったのが、職場の雰囲気を表すエピソード。「ある日、事務所の窓から蚊が入ってきたんです。そしたらみんなが仕事の手を休めて、1匹の蚊を捕らえようと、『あ!そっちいった!』『パンッ!』『ダメかぁ~』って。そんなやりとりが、なんだかとっても穏やかで映画のワンシーンみたいに見えて。こんなこと、今までの職場じゃ無かった。まちに流れている時間が違うんだろうなって思います」

ひと呼吸おいて、最後にこう付け加えてくれました。「都会での暮らしの中で、気づかないうちにいつしか締まっていた“ねじ”が、このまちに来たらゆるまった。でもそれって、締まっていってるときには気づかないんです。ゆるまったときに、初めて気づくんだと思う」

大都市の美術館で、学芸員としてしのぎを削ってきた藤川さん。そんな彼女に、茅ヶ崎のまちは「肩の力を抜いて、自然体の自分でいいよ」と語りかけているのかもしれません。

information

■茅ヶ崎市美術館 http://www.chigasaki-museum.jp/
■美術館カフェ ルシュマン https://sites.google.com/site/lechemincafe/
■RIVENDEL(リベンデル) https://rivendel.jp/index.html
■横濱屋 https://www.instagram.com/yokohamaya_c
■kaca ~夏花~ https://www.instagram.com/kaca.chigasakiudon/
■かいな https://www.instagram.com/kaina0730/

▼後編では、茅ヶ崎市美術館でのお仕事にフォーカス。展覧会を企画するにあたっての藤川さんの想いや、茅ヶ崎と芸術の相性の良さについてなど、とても興味深いお話を伺うことができました。

藤川さんの茅ヶ崎暮らしマップ

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公開日:2021-07-02

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