茅ヶ崎市芹沢在住 齋藤(さいとう)かおりさん
福島県郡山市出身。大学進学を機に神奈川県へ。川崎、東京、藤沢での暮らしを経て2021年4月に茅ヶ崎市芹沢に移住。ご主人、長男(小4)、次男(小1)、長女(年中)の5人家族。自宅近くでご主人のお母さんが経営する「齋藤助産院」で助産師として働く。お産のサポートはもちろん、産前・産後にさまざまな悩みを抱えるママたちに寄り添う。
里山と温かな人々に囲まれた、茅ヶ崎の“山暮らし”
「このあたり、本当にのどかですよね~。近くには牧場や養豚場があって、風向きによっては堆肥の“かぐわしい香り”がします(笑)。子どもたちが通っている近所の幼稚園では養豚場の見学もしていて、私よりもだいぶ早くこの場所に順応しています(笑)」
齋藤さんのご自宅がある芹沢は、昔ながらの田園風景が残る茅ヶ崎の最北エリア。お隣の藤沢市や寒川町との境にあたり、「神奈川県立茅ケ崎里山公園」もあります。よくある茅ヶ崎の海のイメージとはまた違った趣がある、緑豊かな地域です。
この地に移住してもうすぐ1年(取材当時)。移住前は芹沢にも近い藤沢市遠藤の集合住宅に8年ほど住んでいたそうですが、茅ヶ崎に来たきっかけは何だったのでしょうか?
「以前から、子どもたちは祖父母がそばにいる場所で育てたいという思いがありました。そこで、夫の実家がある芹沢でお家を探していたんですが、このあたりは賃貸物件がなかなかなくて…。どうしようかなーと思っていた矢先にこの家が空いたんです。『ここしかないな』と、ほとんどノリで決めちゃいました(笑)」
そもそも一軒家を買うつもりさえ無かったという齋藤さん。勢いで始まった茅ヶ崎暮らしでしたが、「来てみたら楽しかったんですよね~」と満足そうなご様子。「のどかで居心地が良く、子どもたちも近所を元気に走り回っています」
これまで住んでいたところと特に違うと感じるのが、「地域で生きている」という感覚だといいます。
「近所にはご高齢の方が多いですが、皆さん優しくていつも声をかけてくれたり、子どもたちの遊び相手になってくれたりします。逆に、子どもたちも近所のおじいちゃん、おばあちゃんたちのことを気にしていて、『最近、あのおじいちゃん見かけないね』なんて話をしていたら、ちょっと具合が悪くて静養していた、なんてことが後になってわかって。地域に暮らす人たちがお互いに見守りあいながら生活している感じがすごくあります」
引っ越してきた当初は、子どもたちがうるさくして近所に迷惑をかけてしまわないかと心配していたそうですが、すぐに地域に溶け込めたそう。「年末に子どもたちがご近所さんたちに年賀状を書きたがったので、はがきを書いてお家のポストに投函したんです。そうしたら『引っ越してきてくれて、たくさんの幸せを運んできてくれてありがとう』とお返事をいただいて。私たち一家を温かく受け入れてくださっていて嬉しかったですね」
ご近所さんが子育ての強い味方!市外でのレジャーもアクセス良好
夫婦共働きで3人のお子さんを育てる齋藤さん。助産師という職業柄、当直での勤務をこなすこともしばしば。そんな時に助けとなってくれているのが、これまたご近所さんたちだといいます。
「夜通しのお産があると、日中は泥のように眠ってしまうんです。以前、目が覚めたら子どもたちが家にいないことがあって、焦ってすぐに祖父母がいる助産院に電話したんですが『来てないよ』と。『どこ~?』と半泣きになりながら名前を呼んでいたら、お隣から『いるよ~!』と子どもたちの声が聞こえてきました。迎えに行ってお詫びすると、『いいのいいの、忙しいんだからできることはなんでも言って』とおっしゃっていただいて。本当にありがたいです」
ご家族でのお出かけ事情を聞くと、「あんまり茅ヶ崎市内にはいないんですよね…」とのこと。磯遊びが好きなお子さんたちと真鶴の海に行ったり、ご夫婦の思い出の地だという久能山(静岡市)に毎年家族で登ったり。特に山登りは子どもたちの成長を感じられて楽しいそうです。
築40年の住宅を子どもたちが思い切り遊べる家にリノベーション
築40年近く経ったお家をリノベーションした齋藤さんのお住まい。コンセプトは「子どもたちが思い切り遊べるお家」です。もともと3部屋あった1階は壁をすべてぶち抜き、広~いリビングに。また、お庭にはウッドデッキを設置。晴れた日にピクニックをしたり、夏にはプールを広げたりして楽しんでいます。
「子どもと居られる時間は限られているので、とにかく大事にしたい。その一心で、子どもが楽しいと思えるお家を茅ヶ崎出身の建築士さんに設計していただきました。リビングには極力物を置かないようにして、自在に動き回れるようにしています。おもちゃがしまってある押入れは大変なことになっていますが(笑)、子どもたちがのびのび過ごす様子が見られて満足しています」
お子さんたちも、その余りあるエネルギーをお家で発散できているご様子。コロナ禍で思うように外出できなくでも、ストレスをため込むことなく毎日を楽しめているようです。
助産師というお仕事と、齋藤助産院での働き方
さて、ここからは齋藤さんのお仕事についてもお聞きしていきます。
多くの方が、出産というライフイベントによって初めて出会う「助産師」。そのお仕事は、お産への立ち会いや支援をはじめ、妊婦の健康管理、食事や運動の指導、産後の健康管理、母乳指導などにも及びます。また、正常分娩であれば医師の指示なく助産介助を行えるのも助産師の特徴です。日本では法律上、女性のみが就けるお仕事で、主に病院や助産院で活躍しています。
普段どんな働き方をしているのか聞いてみると「かなり自由な勤務体系で、他の助産師が聞いたらきっと驚く」とのお話が。
というのも、齋藤助産院では助産師自身が働ける時間に働くというスタイルなのだそうです。実に柔軟な働き方ですが、そこには齋藤助産院のこんなポリシーがあります。
「助産院はそれぞれいろんな考え方があって、中には仕事とプライベートをしっかり切り分けている助産院もあります。ただ齋藤助産院の場合、院長の齋藤弓子さんが『スタッフそれぞれ、自分が大切にしていることを大事にしてこそ良いお仕事ができる』と考えていて、自分の家庭や子育てを大切にしながら働ける場所を目指すというところから、こうした働き方になっています」
働き盛りの助産師さんは、ご自身が一人のママであることも多いもの。そこで、齋藤助産院ではスタッフのお子さんの託児を行い、仕事の合間に授乳の時間を設けてサポートしています。「当直の日も子どもを連れていっています。仕事中も子どもがずっとそばに居るのでママは安心ですし、子どもにとってもママが働いているところを間近で見れるのは貴重な経験になると思います」
子育て中のママが気軽に相談できる助産院でありたい
産後のサポートも、助産院が担う役割の一つです。
「病院には、困った時にすぐ対応してくれる人やものが揃っている。普段の環境とは異なるいわば“非日常”です。でも、退院すると途端に“日常”に戻って、勝手がわからない中で否応なしに子育てが始まっていく。ここでお母さんたちが大きなギャップや不安を感じることも多いんです。その点で、助産院は“非日常”と“日常”のちょうど中間にある場所。助産師のサポートを受けながらお家と似た環境で育児の練習ができます。実際に、齋藤助産院を利用してくださる方からも『自宅に戻ってからの子育てのイメージができるのでありがたい』という声をよくいただきます」
子育て中は、ちょっとしたことがすごく気になるもの。でも、わざわざ病院に行ったり、電話したりして相談するのは気が引ける。そうして結局悩みを胸にしまいこんでしまう方も多いといいます。
「昔は両親だったりご近所さんだったり、新米母さんのすぐ身近に子育ての先輩たちがいる環境でした。でも今は、以前ほどご近所付き合いも多くないし、両親にも頼れない方がいます。ほんのちょっとしたことでも、子育てで悩んだ時にいつでも訪れることができる場所に、助産院がなれるといいなと思います」
湘南地域の子育て応援ネットワーク「湘南助産師会」
齋藤さんが力を入れていることがもう一つ。それが「湘南助産師会」による助産師、各施設同士のネットワークづくりです。
湘南助産師会は、藤沢・茅ヶ崎・平塚地域で活動する助産師のことを多くの人に知ってもらい、子育てで困ったときに相談しやすい環境をつくることを目指して2020年7月に発足。メンバーは現在50名ほどで、子育て中の人たちが楽しめるイベントを企画したり、地域の子どもたちに命の大切さを伝える活動をしたりしています。
「助産院だけでなく、病院で働く助産師さんにも声をかけています。病院と助産院ではそれぞれ役割が異なりますが、お母さんたちの力になりたいという思いは同じなので、それぞれの得意分野を生かしながら連携し合える関係性を作りたいと思っています」
病院やクリニック、助産院、役所で働く助産師同士がつながりを持つことで、切れ目ない支援を展開できるようになることは、悩みを抱えるママたちにとってとても心強いですね。
産前、出産、産後、子育ての力になりたい助産師がすぐそばにいる
「私、やっぱりお産が好きなんですよね、だからお産はやめられないな〜」
助産師として今後やっていきたいことを伺うと、笑顔でこう答えてくれた齋藤さん。「以前、丸3日間かけてお産をした方が、出産を終えた後に『楽しかった!』と言ってくれた話を聞いたんです。陣痛中助産師がずっとそばにいて、おしゃべりしたり笑ったり、その雰囲気が良かったみたいで。子育てのスタートであるお産を、幸せな体験だったと思えることは本当に素敵ですよね」
「自分の『産む力』を大切にして、自然なお産がしたいというお母さんたちの願い。それを叶えられる助産院がこれからも残ってほしいなと」
胸に秘める熱い想いを、齋藤さんは続けてお話ししてくれました。「もちろん、お産では想定外のことも起こり得るし、お母さんたちの希望通りにいかないこともたくさんあります。自然なお産を何がなんでもおすすめしたいとか、そういうわけでもありません。大事なのは、自分の選択にお母さんたちが納得できることなんじゃないかと思います」
「納得できるお産をするために、病院以外にも助産院という選択肢があること、そしてそこには自然なお産をお手伝いしたい、子育ての悩みを一緒に考えて伴走したいと思っている助産師がいることを多くの方に知ってもらいたいです。そしていくつかの選択肢の中から、お母さんたちの意思でお産の場所をえらんでほしいなと思います。そのために広報活動を頑張ることが、今の私のやりたいことかな」
「それともうひとつ、齋藤助産院の広報活動や湘南助産師会の活動を通して見えてきた『孤育て』や『赤ちゃんを亡くした経験をもつ女性のケア』といった課題に、ゆっくりじっくり向き合っていきたいなと思っています」(このインタビューのあと、自宅で一日一組限定のデイケアを行いたいと考え『助産師のおうち』を開業しました)
最後に、茅ヶ崎・芹沢でどんな暮らしをしていきたいですか?と聞くと、「日々精一杯なので、今の目標は一日一日を無事に終えること(笑)。この地で元気に子どもたちが育っていけばいいなと思います」
助産師としての想いを語る時とは少し違った、ママの温かい眼差しで答えてくれました。
information
■齋藤助産院
HP:https://saito-josanin.com/
Instagram:https://instagram.com/saitojosanin■湘南助産師会
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