2023年11月3日、文化の日に茅ヶ崎里山公園で開催された食・農・音楽をテーマにしたイベント「HARVEST PARK」。快晴の青空が広がる中、1万5千人もの来場者で賑わい、大盛況のうちに幕を閉じました。里山エリアのゴミの不法投棄問題へのアクションとして開催された本イベントでは、ゴミ削減をはじめとした環境対策にも徹底的に取り組み、大きな成果を上げています。当日の様子を、ボランティアスタッフとして参加した池田美砂子がレポートします。
快晴の中、人で溢れかえった茅ケ崎里山公園
2023年11月3日、文化の日。茅ヶ崎の北側・里山エリアにある茅ケ崎里山公園の多目的広場には、これまで見たこともないような光景が広がっていました。
雲一つない青空の下、中央のステージではCaravanさん、Leyonaさん、東田トモヒロさんなど名だたるミュージシャンが心地よい音楽を奏で、それを囲むように並んだフードや地場野菜、雑貨やアート作品、子ども向けワークショップなど約50もの出店ブースは、どこも人で溢れかえっていました。
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Caravanさん、Leyonaさん、東田トモヒロさんらによるライブパフォーマンス
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環境やエシカルをテーマとした物販ブース photo by 牧野 弘
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地元飲食店を中心としたフードブース photo by 牧野 弘
子どもたちはアートワークやシャボン玉に夢中。会場内の至る所を走り回り、思いのままに過ごしていました。
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大きなキャンバスに自由に描くアートワークショップ photo by 牧野 弘
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シャボン玉は子どもたちに大人気 photo by 牧野 弘
里山公園に、子どもも大人もペットも、障がいのある人も高齢の方も、誰もが心地よく過ごせるピースフルな空間が広がった1日。イベント後、主催者から発表された累計来場者数は1万5千人でした。
駅からバスで約20分というアクセスの悪い茅ヶ崎の北側・里山エリアに位置する県立公園にこれだけの人が集っている光景は、茅ヶ崎在住14年目の私も目にしたことがありません。そんな大混雑・大行列にも関わらず特に混乱もなく、会場にはゴミ一つ落ちていませんでした。
食と農と音楽を軸にした“心の収穫祭”
「HARVEST PARK」と名づけられたこのイベントは、食と農、音楽をテーマに、今年初開催された“心の収穫祭”。シンガーソングライター・Caravanさんと、里山エリアで不耕起栽培を営む八一農園を中心とした実行委員会メンバーによる手作りのイベントです。
イベント会社などに委ねることなく、アーティストへの声がけや出店者集め、シャトルバス手配や進行管理など全ての工程を、十数名の実行員メンバーでやり切りました。
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HARVEST PARK 実行委員会のみなさん
求心力のあるミュージシャンとファーマーが中心にいたとはいえ、この規模のイベントを大成功に導いた要因は、間違いなく彼らの「日常」、そしてイベントを作る「プロセス」にあったと思います。
茅ヶ崎の「闇の部分」に触れて
HARVEST PARKの構想は4年前からありました。Caravanさんが友人だった八一農園・衣川晃さんに誘われたことをきっかけに米作りを始め、海側の華やかさとは違う里山エリアの美しい田園風景に思いを寄せ始めた頃。「この景色の中で美味しいものを食べて音楽を聞いて過ごせる、Caravan主体のフェスができたら」と夢を語り合っていたと言います。
しかし世の中はコロナ禍に突入。イベントは愚か、仲間と集うことも躊躇う状況の中でふたりが目にしたのは、美しい里山の景色とは真逆の光景でした。田んぼの脇に捨てられた車、山の中に転がる洗濯機や冷蔵庫、数え切れないほどの空き缶やタバコの吸い殻。光の当たりにくい茅ヶ崎の「闇の部分」を目撃したふたりは、仲間に呼びかけてクリーン活動を始めました。
毎月1回、地道にゴミ拾いを続ける中で、「多くの人にここに来てもらって、美しい景色を発見してもらうことで、ゴミを捨てる人も減るのではないか」という想いがふたりの中で膨らんでいきました。茅ヶ崎里山公園のスタッフとも話し合いを重ねる中で、感染拡大も落ち着いた今年、ようやく開催が決定。主催メンバーと親交のあるアーティストや店舗を中心にイベント趣旨から丁寧に伝えて出演・出店を依頼し、協賛・後援・ボランティアも集めました。実行委員全員で全力で奔走した末、迎えた当日だったのです。
※イベント開催に至る経緯について詳しくはこちらのインタビュー記事をご覧ください。
想いの連鎖が招いたクリーンな会場
「ゴミを減らしたい」という主催者の想いは、イベントの至る所で表現されていました。飲食ブースやキッチンカーではリユース食器Megloo(メグルー)が使用され、返却のためのボックスも設置されていました。
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リユース食器Megloo(メグルー)の回収ボックス
会場内にはゴミ箱が設置されておらず、代わりにゴミや購入品を持ち帰るための風呂敷が無料で配布されていました。
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LUSHのブースでは風呂敷をバッグ型に結ぶワークショップも開催されていました
ボランティアのゴミ拾いの姿も会場内の至る所に見られましたが、彼らのゴミ袋はどれもスカスカ。ゴミ拾いの必要がないほどの美しさが保たれていたのです。
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ゴミ拾いボランティアの中には子どもたちの姿も
これらの施策は、出店者や来場者の理解があって初めて実現することです。リユース食器には利用料がかかる上、返却場所の案内も飲食店の仕事。ランチタイムの大行列に対応するだけでも相当な労力なのに、どの飲食店もボランティアの力を借りて丁寧に対応した結果、返却率は93.5%だったといいます。また、100%ペットボトルのリサイクル素材でできた風呂敷は、出店企業であるLUSHが2,000枚無償で提供してくれたものでした。
それもこれも、企画当初からイベントの明確な趣旨が真ん中に据えられており、主催者が丁寧にコミュニケーションを続けた賜物と言えるでしょう。当日来場者に対してのコミュニケーションは、リユース食器や風呂敷について丁寧に伝えたボランティアによるところが大きかったと思います。
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ボランティアスタッフのみなさん
そのほか、目に見えないところでも環境対策は行われていました。最も電力消費量が多いライブステージ周りの電力は全て太陽光を活用し、オフグリッドで蓄電したものを使用。トークステージは、ステージ上に設置されたソーラーシェアリング(太陽光発電)で発電された電気を使用していました。各ブースも発電機を使わずに出店(キッチンカーでは一部使用)していましたが、発電機の音や排気ガスが出ないイベントが、こんなに気持ちの良いものかと体感しました。
丁寧なコミュニケーションを通して、日常を積み重ねた先の見たい景色が共有できていれば、1万5千人規模のイベントでもゴミ箱は不要なのだと教えてもらいました。
公共空間としての「PARK」で芽生えた当事者意識
もちろん、「ゴミを減らしたい」の前にある「楽しんでほしい」という主催者の想いも会場内の至るところで表現されていました。
植物や木材で装飾されたナチュラルな雰囲気のメインステージは来場者との距離も近く、間近で上質な音楽を楽しめる上、踊ったり芝生に寝転んだり、多様な楽しみ方を許容してくれていました。来場者と同じ目線の高さに設けられたトークステージではエシカルやエネルギーシフトをテーマとしたトークが展開されており、芝生に座り込んで聴き入る人々の姿も。
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参加者と同じ目線に設置されたトークステージ photo by 牧野 弘
地元産やオーガニック、エシカルといったこだわりと想いのある出店者さんとの会話も楽しく、ここでしか出会えないグッズや美味しいものとの出会いも大いに楽しめました。
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Caravanさん自ら育てたお米から作った甘酒を練り込んだパン
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有機農家「農園こえる」のカラフルな有機野菜 photo by 牧野 弘
会場の中央には子どもが自由にお絵描きできるワークショップが開催されており、手にべったりと絵の具を付けてアートワークに没頭する子どもたちの姿も。と思えば、段ボールでできた白い恐竜が現れ、会場内を闊歩。子どもが着用できるサイズの恐竜を作るワークショップも開催されており、時間を追うごとに小さな恐竜さんたちでいっぱいに。昼過ぎには子どもたちが描いた大きな絵が音楽ステージ脇に設置され、場内が一層彩り豊かになりました。
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工房ヒゲキタによる外骨格恐竜「うちのシロ」が場内を闊歩。時間を追うごとに、小さな恐竜さんたちもいっぱいに! photo by 牧野 弘
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子どもたちが描いた絵はステージ脇に飾られました
「PARK」という名の通り、老若男女誰もが思い思いに楽しめるのはもちろん、子どもも大人も参加することで、来場者の中に、ただの「お客さん」とは少し違う当事者意識が芽生えていたように思えました。「私がつくった」「参加できた」という当事者意識が、ここまでクリーンでピースなイベントを実現できたもう一つの理由だと思います。
個人的には、Caravanさんや八一農園の衣川木綿さんといった主催者が自ら、ステージで忘れ物や迷子のお知らせをしていたのも印象的でした。なんでもないことのようですが、会場全体に滲み出た手作りのあたたかさは、こんなシーンにも表れていたように感じます。
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壇上で忘れ物や迷子のアナウンスをするCaravanさんと衣川木綿さん
ラストを飾ったCaravanさんのライブパフォーマンスにはこの日最大の人々が集い、会場全体が一つに。秋の里山の美しい夕景の中、子どもも大人も体を揺らし、会場全体が歌声と歓声、拍手に包まれました。
新たな日常への架け橋としてのHARVEST PARK
さて、話を「日常」に戻しましょう。当初から主催者が「イベントを打ち上げ花火にはしない」と宣言していた通り、翌朝には主催メンバーとボランティアによるクリーン活動が行われました。Caravanさんはじめアーティストも参加し、吸い殻やペットボトル、空き缶をゴミ袋に入れ、1時間以上に渡り会場内外のゴミ拾いを行いましたが、ここでもやはり、ごみの量は拍子抜けするほど少なかったそうです。
大きなイベントが開催された後は、周辺のコンビニのゴミ箱が溢れるという話も耳にする中で、その光景は主催メンバーにとって何よりも嬉しい収穫(HARVEST)だったと思います。
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翌日のクリーン活動に集まったボランティアの方々
もちろん飲食店が早々に売り切れるなど、大盛況だったからこその反省点もあったと思います。でも、それらもすべて真摯に携えつつ、主催者のみなさんの心は新たな日常へ。翌日のクリーン活動終了後、Caravanさんは集まったボランティアのみなさんにこう伝えていました。
「今年のHARVEST PARKは、これで本当に終わりです。でもクリーン活動はもちろん続けていきます。また来月、ここで会いましょう」
一過性のイベントではなく、また新たな日常への架け橋としての“心の収穫祭”。「エシカル」や「SDGs」を掲げるイベントが多く開催される中で、日常の積み重ねからの地続きであるHARVEST PARKには、地に足のついた力強さ、そして共感が生み出す大きなうねりを感じます。
文化の日。食と農と音楽を軸に、きっとこの場にいた一人一人の心に何らかの収穫(HARVEST)があったはず。
みんなの心の収穫祭を、来年もまた、この場所で。
1年後が今から楽しみですね。
writtten by 池田美砂子さん
Harvest Park 実施概要
日時:2023年11月3日(金・祝) 10:00〜16:00
場所:県立茅ケ崎里山公園(茅ヶ崎市芹沢1030)
入場料:無料後援:茅ヶ崎市、茅ヶ崎市観光協会、 FMヨコハマ、湘南スタイルマガジン
主催:HARVEST PARK実行委員会
ホームページ:https://harvestpark-chigasaki.com/来場者数:約15,000人
リユース食器の回収率:93.5%