茅ヶ崎市芹沢在住 豊島亮太(とよしま・りょうた)さん
茅ヶ崎の海からほど近い場所で育ち、小・中学校は地元の学校に通う。慶應義塾大学在学時にオーストラリアへ留学。帰国後は茅ヶ崎に戻り、新規就農者として「島次郎農園」の運営を始める。無農薬、無化学肥料栽培でつくる野菜の力強い味わいに、地元ファンも多数。5歳の娘と妻との3人暮らし。
オーストラリア留学で『農業』と出合う。
豊島さんが、農業を志したきっかけは 20代でのオーストラリア留学で農業体験をしたこと。「大学4年で留年したときに、いろいろなことが嫌になって旅に出ようとオーストラリアに行きました。」そこで、運命の転機が待っていた。
「滞在中、3か月ほど農家でバイトしたときに、日の出から日暮れまで働いて、思い切り体を動かすのが気持ち良かったんですよね。自分もこの仕事をしたいと思いました」
帰国後、実際に動き出すも実家が農家だったわけではない豊島さんは、まずは新規就農の窓口である「かながわ農業アカデミー」へ。
そこで、実際に農家になるプロセスを教えてもらい、1年間の農家研修を経て、空いた農地を借りて3反、およそ1000坪から農家としての第一歩がスタート。
生まれ育った海側から、茅ヶ崎を縦断するように北へと移動し、畑のある芹沢での生活が始まった。
野菜が育たない、原因もわからない…数々の困難にくじけそうになったことも。
始めた頃から今では敷地を4倍に拡大。豊島さんは、無農薬、無化学肥料栽培で野菜を育てている。ビニールハウスは使わずその時期の旬である露地野菜を作っているので、天候や気温に左右されることも多く、最初は戸惑うことも多かった。
野菜が思うように育たないことや、その原因がわからないこと、新規就農者として最初はコミュニティに入るのも難しかったことなど、困難なことは次から次へとやってきたが、何よりも辛かったのは「ひとり時間の長さ」だった。
「冬の凍える寒さのなか、ずっとひとりで作業していると心折れそうになりそうでしたね」…と言うが、それから10年経った今、環境はガラリと変わった。この日もそうだが、豊島さんのもとには、ボランティアで野菜作りや出荷を手伝ってくれる仲間がいる。
ボランティアの人たちは、一緒にバーベキューをする友達や知り合いだそうで、仲間うちで輪が広がり、豊島さんの元に足を運ぶようになったのだとか。「作業しながら談笑したり、こうやって顔を合わせたりしているだけで心強い。彼らの存在が農業をやる上での何よりもの支えですね」と豊島さん。
ボランティアの人にも話を聞いてみた。「私、野菜が本当に好きで、毎週のこの時間がとても楽しみなんです。豊島さんは、とても信頼のできる人。だからこそ、この人の作る野菜は間違いないと思っています」と教えてくれた。
インタビュー中、ふらりとひとりの男性がやってきた。「よう元気? 土地があるからもう少し畑広げない?」と豊島さんに話しかける。聞けば彼は、豊島さんがとてもお世話になっているベテラン農家さんだそうだ。かつてはひとり時間にくじけそうになったとは思えないくらい、今は豊島さんのまわりにたくさんの人が集まってきている。
「ステイホーム中に始めた料理にハマってます」
休日は家族で里山公園を散策したり、幼い頃から通っている北茅ケ崎の駅前にあるスーパー銭湯「湯快爽快ちがさき」に遊びに行ったりするなど、コロナ禍以前にはアクティブに動き回っていたそうだ。最近の話になると、「料理を始めたんですよ。今週もカルボナーラ作んなきゃ」と何やら楽しげな様子。
「自粛期間が長くなり、家でできることを何か始めようと考えていたところ、近所でケータリングや料理教室をやっている『ランティミテ ノマド』のシェフが、声をかけてくれたんです。2、3週間に1回、マンツーマンで料理を習っています」
「卵の会」と称してカルボナーラやだし巻き卵などを作ったり、先週は酢飯の作り方から始まり、すしの握り方まで教えてもらったりしたとか。畑で取れたおいしい食材で、シェフ仕込みの料理を作り家族に振る舞うという豊島さん。家族ももちろん大喜びで新しい趣味を歓迎しているそうだ。
「頑張りすぎず、のんびりと。それも茅ヶ崎らしさ」
「茅ヶ崎の人は、地元ラブな人が多いですよ。」と豊島さん。幼なじみや他県に出た友達もしょっちゅう帰ってきて、交流が続いているのだとか。
「こんなこと言っていいのかわからないけど、観光客の数など藤沢や鎌倉に対して負けを認めているのも僕は茅ヶ崎の好きなところなんです(笑)。頑張りすぎていないというか、ある意味潔いというか。うちはうちらしく、と日々の暮らしをゆったり楽しんでいるのも茅ヶ崎らしさと言えるんじゃないかな」
虫の音だけが響く夕暮れ。ひとりの至福時間。
豊島さんが畑作りで大切にしているのは、「人にやさしく、自然にやさしく」。生物多様性を守るため、人だけでなく、虫も草木も、動物もたくさんの生き物が共存できるような畑を作っていきたいと考え、自身の農園「島次郎農園」を営んでいる。
そして、地産地消に少しでも貢献できればという思いから、地元のレストランや近所の自然食スーパーに野菜を卸したり、また、個人宅に旬の野菜セットを届ける定期購入も行ったりしている。毎週土曜日の朝8時から茅ヶ崎公園で行われる、農家による対面販売「海辺の朝市」には、開店前から並んで待ってくれる人もいる。
「最初の無我夢中だった頃から10年経ち、今は少しずつ農業技術を向上して、うちの野菜を待ってくれる人もいる。前よりは余裕ができてきたかもしれませんね。今後やりたいことですか? やはり時々は海が恋しくなるので(笑)、農業を始めてから全然行っていないサーフィンを復活させたいです」と豊島さん。
最後に、仕事をしていて何をしている時間が一番好きか聞いてみた。
「畑作業が終わったあと、誰もいなくなったこの場所でひとり夕暮れを眺める時間。虫の音だけが聞こえる中、すっと静かな気持ちになるあの瞬間が好きですね」
Information
・島次郎農園:・ランティミテ ノマド Facebook:
https://ja-jp.facebook.com/lintimite.kamakura/
・海辺の朝市:
https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/nousui_nogyo/1006519/1022398/index.html