茅ヶ崎市松林在住 佛木 吾郎(ほとぎ・ごろう)さん
横浜市出身。新規就農を機に茅ヶ崎市へ移住して2年目の29歳。松林のアパートから赤羽根近隣の2つの畑に通い、野菜を育てている。3人兄弟の末っ子。横浜から通う母が畑を手伝う。休日は柳島で釣りも。
代わりがいない、自分でしかできない仕事をしたい。新規就農を機に茅ヶ崎暮らしをスタート
茅ヶ崎と言えば海のイメージが強いが、海を背にして、茅ケ崎駅から車で10分ほど北側に行くと、静かな里山が広がっている。そののんびりした丘の上で、大きな体を黙々と動かし、畑で野菜づくりに汗を流しているのが、佛木さんだ。
新規就農2年目。就農が、茅ヶ崎暮らしのスタートだった。会社員だった佛木さんが就農を意識したきっかけは、ふと目にしたテレビ番組。「高齢化で農業をやる人が少なくなっている、という内容でした。それが5年ぐらい、ずっと頭に残っていたんです。」
会社には自分の代わりはいっぱいいる。猫の手も借りたい、そう思ってもらえるところで仕事がしたかった。自分じゃないと!という仕事。自分の力で仕事をしたい。ずっと、サッカーや体操などスポーツをしてきたし、足も速かった。自然とふれあいながら、体を使った仕事がしたい。それが農業だった。
就農するにあたり、茅ヶ崎を選んだきっかけは、勤めていた職場が茅ヶ崎市の隣町である寒川町だったこと。当時から茅ヶ崎には、海釣りや買い物によく訪れていた。
「茅ヶ崎にはスーパーもいっぱいあるし、まちに古風なところもある。自然もあって、都会的なところもあって、いつか住みたいと思っていました。とても住みやすいところです」
先輩たちの助けなくしては、語れない。感謝の日々
会社を辞め、神奈川県の農業アカデミーに通った後、市役所を通じて借りる畑が見つかった。農業従事者の集まりで紹介してもらった縁で出会った先輩にトラクターを譲ってもらったり、種をもらったりと、様々な面で助けてもらっている。
「先輩方には本当によくしてもらっています。野菜を作る技術は、なかなか自分からは聞けない。まず何を聞いたらいいかわからないし、その人が長年研究して、経験を積んで培ってきた技術ですから、聞くのを遠慮する気持ちもあります。でも、ここでは、向こうから畑に立ち寄ってくれて、教えてくれます」
ある時いただいたサツマイモがすごくおいしく、まさしくプロの味だと感じた。どうやって作ったらこんなにおいしくできるのか。知りたいと思いつつも聞くのをためらっていた佛木さんに、先輩農家さんのほうから「自分のやってきたことをだれかに伝えたい」と声をかけてくれた。
「本当に、ありがたいです」
ほかにも、隣の畑で耕作する70代の先輩が気にかけてくれて、たまにのぞいてくれる。「このタイミングでほうれん草を植えたほうがいい」とアドバイスをくれた。「そのおかげで今年はうまくできた」とうれしそうだ。
新規就農者の飲み会にも出る。30代ぐらいの人が経験を話してくれて、勉強になるし、参考になる。ほかの人のインタビューでもよく話が出る、茅ヶ崎の地元の人の“人の好さ“、”温かさ”。商店街や住宅街で聞けた話が、里山の畑で同様に聞けた。押しつけがましくなく、ちょうどよく、温かい、茅ヶ崎の人。
はじめたばかりで、作業環境はまだまだ。うれしそうに手伝ってくれる母とともに。
会社員時代に資金を作り、機材や資材を買った。しかし「作業環境はまだまだです。」と話す。ベテランの農家さんは、自宅の庭も広く、そこに野菜を洗う場や、出荷準備の作業をするビニールハウスもある。
就農2年目の佛木さんは、アパート暮らし。自宅の小さな流しで出荷用のたくさんの野菜は洗えない。近所に水の音も響く。今は畑に水を運んできて、採った野菜を洗う。「自分で整えていかなくちゃと思っています。」
出荷作業を手伝っているのはお母さん。
「わたしの祖母は八戸で農業をしていたけど、わたしは虫もヤダ(笑)。でも、最近手伝っていて、自分で育てたものが芽が出て売れるまでになって、おいしいと言ってもらえるとうれしいですね。いろいろ勉強している息子から研修を受けているような日々です」
老後、特にしたいことがなかったというお母さん。「畑を手伝っていると、病気もしないし、体力がついて階段もすたすた登れるようになった。第二の人生としては、いいわね」と、うれしそうだ。
真摯に畑に向き合い、育てた野菜たち。地元の人に愛されて
採れた野菜は、スーパーに卸して販売をしている。夏は、キュウリ、トマト、ナス、トウモロコシ、ソラ豆、ピーマン。春はカブや小松菜。冬は、大根、ブロッコリー、春菊、ホウレン草、ニンジンなど。
特にカブはアカデミー生時代から評判がよく、すぐ売れる。オクラも粘りがあっておいしいと喜んでもらっている。
1日は8時間働き、休みは週1日、どこかで休もうと決めている。食べることが好きで、まちの焼鳥屋さんやテラスモールでいろいろ外食している。買い物は出荷先の市内のスーパーで。藤沢のモールにはロットで買うと安いものを買いに出かけるが、買い物はほとんど市内で済んでいる。
「茅ヶ崎は、古風な感じの街並み、昔ながらの感じがいい。いろいろ試しながら、発見しながら茅ヶ崎のまちを楽しんでます。都市でありながら、農業ができるところもあり、海もあり、里山もある。自然がいっぱいで、駅から車で10分ちょっとでこんな静かなところもあるのがいい」
このままずっと、この静かな里山で
畑の春菊や大根、立派なブロッコリーをとって、持たせてくれた。春菊は芳香な力強い香りがし、大根は包丁を入れると、切り口からしずくがあふれ出るみずみずしさ。ブロッコリーは濃い味がして、なにもつけなくてもおいしかった。実直で真面目な、力強い味の野菜たち。とても魅力的だ。
毎日、柔らかな日差しが注ぐこの静かな丘で、文字通り、大地に根を張って生きている。これからこの茅ヶ崎で、どう生きていきたいのか。
「この場所で農業をしながら暮らしていけるだけで幸せです。」
迷いのないその答えが、なんともうらやましかった。