丹沢山塊に囲まれた神奈川県松田町の寄地区にある「NPO法人仂」(根本秀嗣理事長)。木質バイオマス資源の活用、森林再生、トレイル整備に動物観察―。その活動は、とても一言では言い表せません。それでも、まとめるとすれば「山を中心にして集う、人々の輪」でしょうか。輪が大きくなると、できることもやりたいことも増え、仂の輪は広がるばかり。小さな町の大きな活動に密着しました。
始まりは町の温浴施設
この日の作業は、寄地区にある事務所から小田急線新松田駅近くの町健康福祉センターへ薪束を納品するところから始まりました。ここには、松田町の温浴施設「健楽の湯」があります。このお風呂には、木質バイオマスボイラーが設置されており、薪が湯を沸かす燃料として使われているのです。
松田町は、2020年3月に「松田町再生可能エネルギーの利用等の促進に関する条例」を策定。再生可能エネルギーの積極的な導入など環境に優しいまちづくりを推進しています。こうした取り組みは、カーボンニュートラルに向けた森林資源の適切な管理及び保全の一環なのです。
1束はおよそ300キロ
薪ストック用のカゴ台車にぴったり収まるようにまとめられた杉の薪束は、1つで約300キログラム。慎重にクレーンで吊り上げられ、台車へと移されていきます。
製品としての薪は、燃焼効率を上げるためにも乾燥度合が重要な指標の一つだそうで、今回の薪はおよそ半年間乾燥しているとのこと。水分量をチェックし「今回もいい状態ですね」と、どこかほっとした表情のスタッフ。荷台から降ろしたら雨風にさらされないようにカバーをかけて保管場所へ。これを3回繰り返して、ようやくここでの作業が完了となりました。
ウォーミングアップ終了
「おつかれさまでした!」と声をかけると「まだまだウォーミングアップですよ、今日は3人もいたからとても楽でした」と根本さん。そんなことを聞いたら、今日の「メイン」を見ないわけにはいきません!
そこで次は寄の作業場を見学させてもらうことに。森林資源を活用した地域内でのエコシステムの確立は、あくまで仂の活動の一部分。「仂の本拠地」に行けば、もっと何かわかるかもしれない!そんな期待を胸に寄地区へ向かいました。
朝のおしゃべりは作業の潤滑油
10時頃になると、作業場がにぎやかになってきました。自然と、今日のスケジュール、進める段取り、そして個々のちょっとした出来事までおしゃべりを経て作業スタート。もともと、みんな山や森が好きで集ったメンバーですが、それだけで山奥での重労働はできません。
人と人が互いを思いやりながらつながる関係―。それには汗を流すアクティビティに食事や会話―、つまり「時間をともにすること」が大切と気づかされます。つながりは、当然お金では買えません、一朝一夕にもできません。集う人たちは、そこに価値を見出している人も多いのかもしれません。
人の力を合わせて事を成す
さて、団体名の「仂(ろく)」。ちなみにこの作業場は「仂ファクトリー」と呼んでいるそうです。
「ファクトリー」というと、真っ先に思い浮かぶのは「工場」という意味ですが、そこは根本さん、言葉にロマンを寄せているといいます。「人のつながりには『夢』や集う人の『温かい気持ち』が欠かせない。だから、それを醸成する、作る場にしたい」という思いを込めたそうです。人の心、力を合わせて事を成す。「仂」はここからきています。
ウッドワークに励む人
一人の男性がファクトリーの一角で作業を始めました。どうやら流行りの「グリーンウッドワーク」のようです。この日のテーマは小型スプーン。型を取ると、小気味よく斧が動き始めました。周囲では薪割り作業が続いています。根本さんに聞くと、木工好きが増えれば、森や山での活動の範囲も広がっていく考えとのこと。仂では、暮らしに身近な食器などはハンドメイドが結構多いとか。
職員もチャレンジ!
取材を共にしていた町職員に挑戦を促し、急遽バターナイフづくりが決定。そして、作業中にいろいろ聞いてみました。男性は横浜市に住む会社員。コロナを経て今後の暮らし方を考えた時に、あたたかいつながりの中でのんびりと暮らしたいという思いが芽生えたそうです。現在は二拠点生活を満喫中。候補地はたくさんあったそうですが、決め手はアクセスの良さと山があること。お隣さんとの絶妙な距離感も気に入っているそうです。
時間をともにすれば、もう仲間!
松田の良さを語り合いながら手を進めていたら、形が浮かび上がってきました。「木工とか、すっごい苦手なんですがやっていると楽しいですね」。どうやら、すっかりグリーンウッドワークの魅力にハマった様子の町職員。先生に聞くと初めてにしては上出来だそうで、完成品にはかるーくひびが入ってしまいましたがいい記念になりました。
お昼を食べたら森林整備へ
正しく成長させたり、災害を防ぐといった面でも森林には手入れが必要です。仂でも、エネルギッシュな森へと再生させようと、地元の地権者の方々に交渉し、入林許可をもらい活動しています。林野庁の森林整備交付金をもらっているため、実績報告も大事な仕事の一つ。手入れを重ねてきた山に入り、状況を確認します。
つながることは、広げること
僅か半日ほどで見えるものも限られますが、感じることがありました。仂は山を通して人のつながりを少しずつ広げてきたこと、次第に人が集まってきたこと、そしてやりたいことや、やれることが増えてきたこと。
山は、この松田町の魅力の一つなので、仂の活動は、そのまま地域資源の活用でもあります。人口1万人ほどの小さな町、松田町にとても大きな魅力を添えているのだと思います。
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